研究概要 |
本研究は,環境中に排出された多環芳香族炭化水素(Polycyclic Aromatic Hydrocarbons:PAH)類の大気内反応により二次生成する,含酸素PAH誘導体の生成機構ならびに環境動態を明らかにするとともに,それらによる生体影響の評価を行うことを目的としている。本年度は,以下の項目について検討を行った。まずは,模擬大気反応実験により,含酸素PAH誘導体の二次生成を定量評価する反応論・速度論的基礎データを得るために,反応実験のための最適な装置設計/反応条件の検討を行った。構築した反応実験系を用いて,PAH類の光酸化反応による含酸素PAH誘導体の生成を検証した。その結果,PAH類の一種である1-ニトロピレンへの紫外光照射によって,5種類の水酸化されたニトロピレン異性体が生じることが明らかとなった。また,実環境大気中の水酸化ニトロピレンを分析したところ,模擬大気反応実験系で得られた5種類の異性体を初めて検出することに成功し,それら濃度の高時間分解能測定による時間変動パターン解析の結果から,大気中水酸化ニトロピレンの生成にはいずれも1-ニトロピレンの光酸化反応が寄与していることを明らかにした。また,酵母Two-hybridアッセイ法により,上記5種水酸化ニトロピレンのエストロゲン/抗エストロゲン活性およびアンドロゲン/抗アンドロゲン活性などの内分泌かく乱活性を測定したところ,いずれの異性体も,比較的強いエストロゲン・抗エストロゲン・抗アンドロゲン活性を示すことが初めて明らかとなった。
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