研究概要 |
本研究は,環境中に排出された多環芳香族炭化水素(Polycyclic Aromatic Hydrocarbons:PAH)類の大気内反応により二次生成する,含酸素PAH誘導体の生成機構ならびに環境動態を明らかにするとともに,それらによる生体影響の評価を行うことを目的としている。本年度は,以下の項目について検討を行った。 まずは,benz[a]anthracene-7,12-quinone(BAQ)を対象としてそれらの実大気観測を行うとともに,模擬大気-土壌粒子表面不均一反応系における反応実験によって,黄砂粒子表面が関わるBAQの大気内二次生成について検証した。BAQ/PAH比と飛来黄砂濃度を比較したところ,北京では,黄砂が大量に飛来した期間に,粒径>7.0 μmのフラクションにおけるBAQ/PAH比が著しく上昇していた。この結果は,自然起源の粗大粒子である黄砂上でのBAQ二次生成を示唆している。また,室内実験におけるオゾンとBaA(benz[a]anthracene;BAQの親PAH)との不均一反応では,用いたいずれの粒子(土壌粒子,グラファイト粒子,およびテフロン粒子)上においてもBAQの生成が確認されたが,その生成速度および生成収率を比較したところ,BAQの生成は土壌粒子上において最も有利に進行することが分かった。黄砂期の大気粒子における高いBAQ/PAH比の一因は,黄砂粒子上でのBAQ二次生成であった可能性を支持する結果を得ることができた。
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