研究概要 |
本年度は,まず,これまでに実行した現地野外調査を含め,研究代表者の過去の調査データと既存データを用い,九州南部,宮崎県都城盆地(国土地理院発行5万分の1地形図「都城」)において,埋没腐植層の分布を調べるとともに,都城市大岩田町の約4mを超える代表的なテフラ-土壌シークエンスについて,地表から深さ1m以内と1m以深における土壌炭素貯留量を比較した.その結果,5万分の1地形図「都城」内において,約270km_2の範囲に黒ボク土が分布することや,低地や山地の一部を除き地表下1m以深に埋没腐植層が広く分布することが明らかになった.また,代表的なテフラ-土壌シークエンスにおける地表下1m以深の土壌の炭素貯留量は,地表部の約1.5倍あることを試算した.この結果は,黒ボク土の分布が卓越する地域において,地表下1m以深の土壌における炭素貯留量が看過し得ない量で存在することを示唆した. 次に,九州南部の大隅半島,鹿児島県錦江町において,約7,300年前に鬼界カルデラ(現薩摩硫黄島付近)から噴火した鬼界アカホヤテフラと,約6,400年前に開聞火山群池田湖から噴火した池田湖テフラに挟在する約900年間で生成した埋没土壌について,炭素・窒素含量の測定,植物珪酸体分析を実行した.その結果,約900年間で黒色腐植層が発達し,その炭素含量は最大42.1gkg^<-1>,窒素含量は最大1.6gkg^<-1>を示すことが明らかになった.さらに植物珪酸体分析では,土壌有機物の主な給源としてススキ属が優勢であることが示唆された.これらの成果は,テフラなどによる埋没作用によって,ススキなどの草本植生を主な給源にする土壌有機物が,約900年を経過しても厚さ10cm程度で,40gkg^<-1>以上の炭素を地中に貯留し続けることを示唆した.すなわち,土壌の炭素貯留を考える上での基礎的知見となる成果が得られた. 併せて,研究代表者が,調査,解析済みの埋没土壌に関する知見を論文化した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
この理由として,一点目は,地理情報システム(GIS)による図化が,まだ概略図にとどまる点で,これは,地理情報システム(GIS)についての技術習得が想定より時間を要したためである.二点目の理由としては,植物試料と新鮮火山灰による初期土壌生成過程検討のための予備実験の成果が思わしくなかったために,その室内実験による成果が得られていない点にある.一方で,埋没土壌に関する知見の論文化については,順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
地理情報システムによる図化については,まだ概略図にとどまるので,さらに詳細に行う予定である.植物試料と新鮮火山灰による初期土壌生成過程検討のための室内実験では,予備実験において,想定より土壌化の進展が遅く,顕著な成果があげられなかったので,条件設定を再検討するとともに,なるべく早期に実験を進める. 一方で,埋没土壌に関する新たな知見についての成果発表は,順調に遂行しているので,引き続き論文化を目指した研究についても進める.併せて,本年度は,本研究の最終年度にあたるので,報告書の取りまとめに向けた補足的な実験やデータ整理を進め,野外調査なども補足的に行う.
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