大気中に存在する微生物の多様性,時空間的動態,輸送経路については未だ不明な点が多い。本研究では,富山県の平野部にある富山大学屋上を中心定点とし,一方で山岳部にある立山でも定点として,大気中微生物を捕集し,分子生物学的手法等で微生物群集の動態の把握を目指している。今年度の本研究では,2009年~2011年の間の8月~9月の間に,富山大学理学部屋上と立山浄土山山頂付近にて,同日同時刻にサンプリングした大気試料について,PCR-DGGE(変性剤濃度勾配ゲル電気泳動)法で比較解析を行った。細菌の16S rRNA遺伝子を標的とした場合,両地点でバンドパターンにかなりの違いが認められ,大気中の細菌群集組成は富山県内の平野部と山岳部で異なることが示唆された。さらに,主要なバンドの塩基配列を解析したところ,立山の試料では未培養細菌由来と思われるバンドが多く検出された。一方,真核生物の18S rRNA遺伝子を標的とした場合は,両地点でバンドパターンが類似している日が多かった。主要なバンドの塩基配列を解析したところ,子嚢菌類,担子菌類,植物に由来するバンドが検出され,特に子嚢菌類のCladosporium属が多く検出された。ところで,平成22~24年度に実施した本研究で検出した微生物種による影響に関して,ヒトに病原性を有する微生物種はほとんど検出されなかったが,マメ科植物の根に共生する根粒菌などが少し検出された。今後も,分子生物学的手法と培養法で,大気環境中の微生物群集の季節動態を解析していくとともに,大気環境中に存在する微生物の環境適応能として,紫外線,乾燥,活性酸素種に対する耐性が重要と考えられるので,それらの能力の把握を目指す予定である。
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