研究課題/領域番号 |
22510028
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
平林 公男 信州大学, 繊維学部, 教授 (20222250)
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研究分担者 |
大川 浩作 信州大学, 繊維学部, 准教授 (60291390)
新井 亮一 信州大学, ファイバーナノテク国際若手研究者育成拠点, 助教 (50344023)
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キーワード | トビケラ目 / タンパク質 / クローニング / 高精度発生予測 / 巣糸 / ヒゲナガカワトビケラ / 生活史 / 絹糸腺 |
研究概要 |
千曲川中流域におけるヒゲナガカワトビケラ幼虫の流程分布を幼虫調査、ならびに成虫調査を併用することにより明らかにした。分布は特定地域に集中し、幼虫の齢組成の解析結果から年2世代を過ごす生活史であることが明らかになった。一方、ヒゲナガカワトビケラ幼虫絹糸腺に存在する4種のシルクタンパク質の内、Stenopsyche marmorata silk protein (Smsp)-1の精製に成功した。Smsp-1のアミノ酸配列を分析した結果、次のことが明らかになった。(i)分子量380kDaの酸性タンパク質。(ii)280-300アミノ酸残基の長周期構造。(iii)(ii)の繰返部分の上流に位置する10数残基の配列は、Serが交互に出現するパターンを持ち、部分的にホスホリル化を受けている。(iv)長周期構造の3割程は、40-41残基の特定パターンを持つ配列で占められ、この部分のSer残基は非常に高頻度にホスホリル化を受けている。(v)Smsp-1の長周期構造には、カイコ由来のFibroin Hとの類似性はほとんど見られないので、トビケラ類シルクタンパク質は、水中における独自の繊維形成機構を持つことが示唆された。以上の知見は、(vi)Smsp-1の発現量およびホスホリル化頻度の年間推移を定量することで、トビケラ類の地域集団における蛹化同期時期を予想できることを示している。 4種のSmspのN末端アミノ酸配列をもとに設計した縮重プライマーを用いて、絹糸腺cDNAライブラリーから各遺伝子のクローニングを行った。その結果、Smsp-2,Smsp-3,Smsp-4をコードするcDNAのクローニングに成功し、また、Smsp-1のC末端断片をコードするcDNAクローンも獲得した。そこで、これらの配列を元にプライマーを設計し、2011年4月から翌年1月の間、月毎に5齢幼虫を採集して、リアルタイムPCRにより遺伝子発現解析を行った。その結果、Smsp-2発現量の変動は非常に大きく、また、Smsp-4発現量は夏季に比較的多く、冬季には減少する傾向が見られ、幼虫巣網を形成するシルク蛋白質組成は時季により変動している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定のとおり、(1)トビケラ類シルクタンパク質4種(Smsp-1-4)の生化学的分析手法確立および遺伝子クローニング、(2)リアルタイムPCRを用いるシルクタンパク質発現量の年間推移、(3)複数のトビケラ類地域集団における生活環記録と相互作用類推は成功裏に完了した。実績概要記載事項(vi)の知見を得るための抗Smsp-1抗体およびその他の実験用部材調達も終了した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、達成度記載事項1-3により得られた知見、および、実績概要記載事項(vi)の実験データを体系化して、トビケラ類の生活環および絹糸腺内の生理・生化学的状態の年間推移を分析することにより、成虫への羽化が大量同期的に生じる時期および地域集団を特定または予想のためのアルゴリズム・手法の開発と評価を行う。当初計画の変更もしくは問題点は現時点ではない。実績概要記載事項(vi)の実験は、抗Smsp-1抗体、抗ボスホセリン抗体、および、Phos-tagを用いるELISA法により実施する。定期的にサンプリングした凍結保存絹糸腺試料を所有しているので、実験実施の支障はない。
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