佐渡島のトキ野生復帰において,トキが通年利用する重要な餌生物であるドジョウの生息量を,エコロジカルネットワークの再生という生態学的視点から,増加させるプロセスの確立を研究目的としている.国仲平野の圃場整備水田域の水路網を対象に,春季(成魚が対象:産卵のための水田魚道設置場所の検討)と夏季(稚魚が対象:水路における稚魚の生息場の改善)に魚類・物理環境調査を約50地点で行った.水路網調査では,支線排水路と幹線排水路の合流点における落差,ポンプを利用した排水施設,用水のパイプライン化による取水等の有無について確認した.ドジョウ生息量とこれらの環境要因の関係性を明らかにするため,一般化線形モデル(GLM)による解析を行い要因の抽出を行った.モデル解析の結果から春季と夏季におけるドジョウの推定密度を地図化し,ネットワークの再生手法を検討した. ドジョウの生息環境要因は,春季では水田面積,流速の変動係数,幹線排水路との接続性が正の要因となり,コンクリート床,排水機能,標高が負の要因としてドジョウの生息量に影響した.また,夏季では水田面積,水中植生が正の要因となり,水深,排水機能,給水機能,標高が負の要因としてドジョウ稚魚に影響した.両季節のドジョウ分布図を比較すると,分布の仕方が異なっていた. 両季節に共通して移動経路を分断し排水効率を上げる排水施設の存在,夏季ではパイプラインを通じた給水機能による水の制限といった圃場整備による改変要因がドジョウの生息環境を悪化させていると考えられた.また夏季では,ドジョウ稚魚は水中植生が繁茂している水路で多く見られたことから,稚魚は成魚よりも水路内環境の影響を受けやすいことが示唆された. 本研究の成果は,佐渡市の生物多様性地域戦略に反映され,水系ネットワークの再生手法として紹介・推奨されている.
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