河川環境において堰・ダムなどの人工構造物が、魚類をはじめとした河川生物の生息における大きな限定要因となっている。本研究では、多数の構造物によって河川が分断されている四国4県にまたがる1級河川の吉野川をモデルとして、魚類鍵種の遺伝子交流の程度を解析するとともに、遡上および遡下を妨げる構造物設置の条件を解明し、魚類の生活史を考慮した河川管理手法の開発を行う。 供試魚は吉野川水系のオオヨシノボリ6地点からそれぞれ21から44個体用い、DNAを抽出した。増幅したマイクロサテライト領域は、電気泳動を行った後、アリルサイズを決定し遺伝的解析に用いた。耳石による回遊履歴の判定は吉野川の早明浦ダム上流部および早明浦ダム下流の貞光川の個体のSr/Ca濃度を計測した。 遺伝的多様度を示すヘテロ接合体率(期待値)の平均値は0.741~0.809の値を示し、個体群間で大きな差は見られなかった。各個体群間の遺伝的分化程度を示す異質性検定では、早明浦ダム上下流部の個体群間で多くの有意差がみられた。耳石Sr/Ca解析においては、早明浦ダム上流部の4個体のSr/Ca値は、それぞれ耳石中心から縁辺部にわたり安定して低い値を示し、陸封されていることが実証された。一方、貞光川の個体は両側回遊型と陸封型の回遊履歴を示す個体がそれぞれ見られた。 以上の結果から、早明浦ダム上流域個体群の陸封化が確認されるとともに、人工構造物による分断の影響を受け、それぞれの個体群は遺伝的に分化していることが示唆された。
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