河川環境において堰・ダムなどの人工構造物が、魚類をはじめとした河川生物の生息における大きな限定要因となっている。本研究では、多数の構造物によって河川が分断されている四国4県にまたがる1級河川の吉野川をモデルとして、魚類鍵種の遺伝子交流の程度を解析するとともに、遡上および遡下を妨げる構造物設置の条件を解明し、魚類の生活史を考慮した河川管理手法の開発を行う。 解析に用いたタカハヤは高知県の吉野川水系汗見川の汗見ダム(堤高18.5m)上流部1地点、汗見ダム下流部の汗見川支流西谷川の堰堤上流部と下流部の2地点、愛媛県重信川水系井内川の堰堤が連続する区域の上流部と下流部2地点、重信川水系石手川ダム(堤高87m)の上流部と下流部2地点の計7地点から約30個体ずつ採取した。ミトコンドリアDNA解析はcyt-b領域の前半部506bpの塩基配列から遺伝的多様度と分化程度を評価した。 各集団のハプロタイプ数は1~8個検出され、石手川ダム上流部で8個と最も多く、西谷川上流部では単型であった。遺伝子多様度は石手川ダム上流部(0.684)と井内川上流部(0.677)で高く、西谷川(上流部0.000、下流部0.065)では低かった。ハプロタイプネットワークを構築したところ、汗見川水系および重信川水系井内川でみられるハプロタイプ1~3のグループと重信川水系でのみみられるハプロタイプ4~12のグループに大きく別れた。各個体群間の遺伝的分化を示す異質性検定では、汗見川水系の西谷川上流部と下流部および汗見ダム上流部と西谷川下流部の組み合わせ以外では集団間で有意差が確認され、人工構造物による分断の影響が示唆された。
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