研究概要 |
形状の異なるナノマテリアルの影響:カーボンナノマテリアルであるフラーレン粒子(C60)とフラーレンウィスカー(FNW)の気管内単回投与の慢性実験で、C60に比較してFNWの生存率の低下とFNW投与動物での肺・肝腫瘍形成を認めた。そこで、ヒト正常腹膜細胞を用いて細胞毒性とがん関連遺伝子発現について検討した。その結果、腹膜細胞のLDH露出量を指標とした細胞毒性は、FNWよりもC60で強く、1か月培養での細胞増殖能はC60で約50%抑制されたがFNWでは変動しなかった。がん関連遺伝子発現の検討では、1か月培養でC60, FNW共にP53, P21遺伝子発現には変動を認めなかったが、C60ではアポトーシス関連遺伝子Bax遺伝子の増加とBclxL遺伝子の低下を認めた。金属ナノ粒子とミクロ粒子の気管内投与による亜急性毒性比較: これまでの実験で細胞毒性や変異原性試験で陽性を認めたDy2O3のナノ粒子とミクロ粒子を用いてin vivo実験を行った。気管内投与3か月後に得られたBAL中のタンパクを、32種multiplex cytokine assayで分析した結果、対照マウスと比較してタンパク量が2倍増加したサイトカインはIL-1βとMCP-1で、IL-1βはミクロよりもナノ粒子で、MCP-1はナノよりもミクロ粒子で2-3倍高かった。肺組織のDNAプロファイルは、既にassayを終了し、解析中である。実験結果から、①in vitro実験とin vivo実験の結果に解離を認める、②ナノあるいはミクロ粒子の気管内投与では、暴露部位のみならず、血液を介して他の臓器にも影響する、③培養実験では、正常細胞と非正常細胞、あるいは種の違いで、発現する細胞毒性や遺伝子レベルでの毒性発現が異なる可能性があることが示唆された。この点を明確化するためにはさらなる研究が必要である。
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