本研究では、3地域(日本、中国とその他地域)の応用一般均衡(CGE)モデルを構築した。そして、日本において、炭素集約度と貿易集約度の共に高い4つの産業、すなわちセメント、鉄鋼、化学製品と紙パルプ産業をケースとして選択し、排出量取引制度に対する補足的な制度となる国境調整や排出枠無償配分の効果を分析した。また、中国での炭素制約導入が日本の排出量取引制度に与える影響も分析した。その結果、1)完全市場配分(Full Auction)の場合、CO2排出価格が一番低い水準に達する、2)国境調整がカーボン・リーケージを緩和すると同時に、CO2排出枠価格を上昇させる、3)中国において炭素制約が導入された場合、日本の排出量取引市場に影響を与える。その結果として、シナリオに関係なく日本のCO2排出枠価格が上昇する、4)Output-based allocationシナリオは、グランドファザリング・シナリオよりもカーボン・リーケージの低減効果が大きく厚生水準も高い。これは、Fischer and Fox (Fischer and Fox 2009) の結論と同様である、5)補償政策のシナリオを実施する際には、WTOルールとの整合性、シナリオ間の経済的な影響の大きさの違い、国内産業保護とグローバルなCO2排出の効率的削減とのトレードオフ、などに関して留意が必要である。 今後の展開としては、モデルを拡充し、かつより精緻化させることが考えられる。具体的には、分析対象とする地域や産業セクターの数を増やし、最近の国際交渉や東日本大震災の影響などを考慮して各セクター/各地域の炭素制約をアップデートすることが必要である。すなわち、より現実に近い仮定を用いてシミュレーションすることを次のステップとしてめざしたい。
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