地域環境に関わる困難な合意形成のプロセスを円滑に進め、合理的な意思決定を可能にするための仕組みとして、環境アイコンであるサケ科魚類を活用したアメリカ合衆国西海岸のコロンビア川流域における先進的な自然再生活動における多様なステークホルダーの協働を分析した。2月10日から26日までコロンビア川中流のWalla Walla川流域、および下流のSalmon川流域において自然再生活動の実態を調査した。重要なステークホルダーである米国陸軍工兵隊の技術者、国営電力会社であるBonneville Power Administration(BPA)、流域の先住民によるサケ科魚類再生活動を統合するColumbia River Inter-Tribal Fish Commission(CRITFC)、農業者によるサケ科魚類再生への取り組みのインセンティブを提供することを目指す農産物認証システムであるSalmon Safe関係者、農業者と協働して河川修復とサケ科魚類生息地の再生に取り組むWalla Walla County Conservation District(WWCCD)に対するインタビューを実施した。その結果、これらのステークホルダーが、流域に多数設置されているダムや取水堰とサケ科魚類との共存、電力供給と自然再生の両立、先住民による伝統的な資源利用を保証するための仕組みづくり、流域環境に配慮した持続可能な農業システムの構築。治水と土壌保全のための河川改修とサケ科魚類の生息環境の両立、などの多様な視点から、それぞれ独立に、しかしゆるやかに協働しつつ活動している実態が明らかになった。これらのステークホルダーは、環境アイコンとしてのサケ科魚類の再生と生息環境の回復というビジョンを共有しつつ、それぞれ異なる関心と利害から、時には鋭く対立しながら独自の活動を展開している。今後、このような環境アイコンを核とした「差異を維持した協働」が成り立つメカニズムを、さらに詳細な調査によって解明していくことによって、地域の環境課題解決のための環境アイコンの活用プロセスの理論を確立できるものと考えられる。
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