研究課題/領域番号 |
22510048
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研究機関 | 長野大学 |
研究代表者 |
佐藤 哲 長野大学, 環境ツーリズム学部, 教授 (10422560)
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キーワード | 環境アイコン / コロンビア川 / サケ / ステークホルダー / 自然再生 / 合意形成 / 協働 / アメリカ合衆国 |
研究概要 |
環境アイコンであるサケ科魚類を活用したアメリカ合衆国西海岸のコロンビア川流域における先進的な自然再生活動を分析し、環境アイコンを核とした「差異を維持した協働」が成り立つメカニズムを解明していくことによって、地域の環境課題解決のための環境アイコン活用プロセスの理論を確立することを目指して研究を行った。4月28日から5月10日まで、コロンビア川支流のWalla Walla川流域、Yakima川上流域において、先住民政府によるサケ科魚類増殖事業、Walla Walla County Conservation District(WWCCD)および州政府野生生物局による自然再生事業を中心に調査を実施した。サケ科魚類増殖放流事業にかかわる賛否両論の議論の中で、サケ科資源の確保を優先する先住民政府が設立したYakima Fisheries Project Research Centerは、Conservation Hatchery(環境保全型孵化場)という先進的な発想を用いて技術開発と実験を行っている。その中心施設であるCle Elum Supplementation and Research Facility(CESRF)では、種苗放流はあくまでも野生個体の繁殖を補って漁獲を保証するための「補充」と位置付けられており、放流された稚魚の自然状態での繁殖が将来的に野生個体群の繁殖を増加させることがめざされている。これは流域全体でさまざまなステークホルダーによって行われている自然再生事業と対応するものである。州政府によるTucannon River Hatcheryおよび流域の自然再生事業サイトでは、サケ科魚類野生個体群の生息と繁殖を支える環境の再生へ向けて、多様な事業が展開されて大きな成果を挙げている。これらの多様な主体が相互作用しながら「差異を維持した協働」を推進できる重要な要因として、人々の誇りや愛着と呼応した「社会文化的インセンティブ」の重要性が浮かび上がっている。経済的な価値に直結するわけではないが、異なる価値・規範を有する多様なグループから社会的・文化的に高い評価を受けることが、非常に強いインセンティブを提供しており、これが「考え方は違っても尊重せざるをえない」関係の基盤を形成している可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
特に重要性が高いと判断できる事例について、十分な調査を実施することができた。また、それ以外の事例(農産物認証システムSalmon Safe、および米国陸軍工兵隊の技術開発におけるインセンティブ)に関しても、かなりの情報を得ることができた。理論構築に向けて、社会文化的インセンティブという視点を導入することで、大きなブレイクスルーが得られる可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
社会文化的インセンティブ概念を中心に、考えは違っても互いに尊重せざるを得ない関係が構築されるメカニズムを分析して、環境アイコン活用プロセスの理論を構築する。社会文化的インセンティブが特に強く作用すると考えられる事例として、先住民政府によるサケ科資源増殖のためのConservation Hutchery、農業者によるサケ科魚類再生への取り組みのインセンティブを提供することを目指した農産物認証システムであるSalmon Safe、および農業者と協働して河川修復とサケ科魚類生息地の再生に取り組むWalla WallaCounty Conservation Districtの事例をさらに詳細に分析することによって、差異を維持した協働における環境アイコンの機能を解明したい。
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