環境アイコンであるサケ科魚類を活用したアメリカ合衆国西海岸のコロンビア川流域における先進的な自然再生活動を分析し、環境アイコンを核とした「差異を維持した協働」が成り立つメカニズムとして、多様なステークホルダーの誇りと愛着に呼応する「社会文化的インセンティブ」の重要性に着目してきた。最終年度である24年度は、経済的な価値に直結しなくても、異なる価値・規範を有する多様なグループから社会的・文化的に高い評価を受けることが、環境アイコンを核とした自然再生活動に非常に強いインセンティブを提供する可能性を詳細に検討するために、10月27日から11月3日まで、コロンビア川支流のWalla Walla川流域において、河畔林再生事業を通じて農地管理と河川生態系の再生の両立を進めているWalla Walla County Conservation District(WWCCD)関係者、およびサケ科魚類生息河川への環境負荷低減活動を支援することを目指す農産物認証システムであるSalmon Safeを採用している農業者に対する聞き取り調査と、活動現場の観察を行った。サケ科魚類とその生息環境の再生から直接の経済的利益を受けるわけではない農業者は、農地からの表土の流出を防ぐ河畔林の機能や認証取得による経済効果の可能性について意識はするもののそれほど重要視しているわけではなかった。しかし、多様な主体によるサケ科魚類再生活動の意義については一般に高く評価し、自らがその一翼に参加することへの納得と自負を表明することが多かった。利害が異なる多様なステークホルダーがサケ科魚類の再生という目標を異なる立場から緩やかに共有し、多様なチャンネルを介したコミュニケーションを通じて「考え方は違っても尊重しあう」関係性を築くことによって、「差異を維持した協働」が実現するメカニズムの重要性が明らかになった。
|