研究概要 |
地下水砒素汚染の影響を受けながら,適切な代替水源をもたなかった農村において,環境負荷の小さいエコサン・トイレの導入によりため池の水質保全を図りつつ,ため池を水源とする水供給施設(PSF)が導入された.導入された生活環境施設の利用状況をフォローするとともに,施設導入によってもたらされる生活ならびに住民意識の変化を把握した.生活環境の変化に対する男女間での認識の相違を把握するため,2012年2月に男性を対象としたアンケートを実施した(女性を対象としたアンケートは引き続き実施予定).以下の傾向は,男性を対象に実施したアンケート調査の結果と以前の調査結果との比較ならびに9月と2月に実施したPRAの結果から得られたものである. PSFの利用者は全世帯の75%と低いが,砒素に汚染されている浅井戸の利用者が減り,PSFと同時期に設置された深井戸利用者が増えている.飲料水源までの距離によって選択されている傾向がみられる.2011年8月以降,洪水による長期の浸水に見舞われたが,エコサン・トイレは利用可能であったところから,以前の洪水期や近隣地域と比べて下痢症の発生頻度は低かった.男女別に行ったPRAの結果から,生活環境施設導入により実感できる変化として,男女ともに発病頻度の低下,野外排泄等による悪臭やハエの低減などをあげており,衛生改善がもたらす効果が認知されている.女性からは,諍いの減少,水汲みの負担軽減,その結果として,おしゃべりの時間などコミュニケーション機会の増大なども実感されている.さらに,PRA参加者の間では,これらの変化が生活の質向上,家計負担の軽減につながることが認知されている. この他,発病頻度ならびに医療費に関する詳細なモニタリング調査を3月より実施している.今後は,生活環境施設の主体的管理に関わる変化をフォローするとともに,女性を対象としたアンケート調査を実施し,総体的な生活環境施設によってもたらされた変化に対する住民の意識を把握する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
医療費の変化に関わる調査方法の検討に時間を要し,これに関するモニタリング調査の開始が遅れたため,便益の特性に関する分析が進んでいない.しかし,生活の変化を住民がどのように取られているかについては,PRAやアンケート調査から把握が進んでおり,そのなかで,もたらされている便益についての認知が深まっている傾向がみられ,コミュニティレベルでの自立的管理を促すことにつながる要因を分析できると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
生活環境施設がもたらす便益に関して,モニタリング調査等による情報収集,これに基づく便益の特性を分析する.コミュニティ構成員間で便益に関わる認知レベルが高まれば,適正管理へのインセンティブとなり,協力関係も深まるため,得られた便益を地域コミュニティへ還元する方策を考察する.一方,施設管理ならびに住民の利用状況の変化をフォローしつつ,アンケート調査,PRAから得られる結果をもとに,主体的に生活環境を改善・維持していくための要件を考察する.最終的には,地域コミュニティによる自立的管理のための社会システムの構成要因として,地域コミュニティが備えるべき能力,管理組織の役割・機能,外部者の役割等を明確にする.
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