開発途上国では、社会開発課題の多くは、国際援助機関、開発NGOに解決をゆだねているが、導入された施設等の管理やサービスの継続のための外部の関与は限定的であり、多くの場合、裨益者であるコミュニティが主体的に担わなければならない。本研究では、地下水砒素汚染地域にあり、ため池を水源とする水供給施設(PSF)が導入された農村を対象に、コミュニティによる施設管理段階における事象を観察し、自立的管理に求められる要件を考察した。 対象村では、ため池の提供者でもある住民の一部が飲料水源の水質維持のために決められたルールに従わず、汚染を懸念する住民の多くは、再び浅井戸を飲料とするようになり、PSFの利用は限定的となっている。施設管理のために結成されたコミュニティ組織も対応能力を欠いている。一方、意識調査結果から、住民の間で砒素汚染リスクの認知が十分高いとは言えず、適正管理を強く求めることもなく、生活環境を維持するために個人が果たすべき役割や責任についての認識も低い。また、コミュニティリーダーと目されている人物の会話ネットワークが一部の世帯に限られ、問題認知や解決に向けた議論がコミュニティ内で伝搬していない可能性が高い。 地域コミュニティのニーズとして、安全な水供給は上位に位置しているが、提供された施設が適正に管理されずに、ニーズが満たされなくなることへの危機意識は低い。開発援助のかかわりとしては、水源とする池の選択、コミュニティのネットワーク特性に応じた配置計画の重要性が指摘され、自助努力による解決を促すため、砒素汚染リスクに関する認知力向上を図る必要である。管理に関しては、コミュニティ組織が問題解決を担い、住民との信頼関係が築かれるよう、メンバーの選定方法を再考するとともに、水質保全や施設維持にかかわる規則を決めるにあたっては、できるだけ多くの住民の参加が求められる。
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