研究概要 |
DNAは放射線や化学物質によって絶えず損傷を受ける。損傷を受けたDNAは複製DNAポリメラーゼの進行を阻害する。細胞はこのような鋳型DNAの損傷による複製ポリメラーゼの進行停止を解除し、適切に複製を再開する仕組みを複数備えている。DNA複製停止解除機構は様々なDNA代謝に関わるタンパク質因子のユビキチン化によって厳密に制御されていることが明らかにされてきた。我々はこれまでの研究から適切な複製停止解除ががんの引き金となる遺伝子変異を抑制することを示した。従って複製停止解除の制御機構の解明はがんの発生機序や抗がん剤の作用機序を理解する上からも重要である。 本研究では、これまでにDNA損傷応答に関与することが示されたユビキチンリガーゼSHPRH,RNF8,RNF20などの遺伝子破壊細胞株の作製・解析やタンパク質複合体精製による結合因子の同定を行い、ユビキチン化による複製停止解除機構をさらに解明する。これまでにニワトリB細胞株DT40を用いて、SHPRH,RNF8,RNF20遺伝子の欠損細胞株を作製した。SHPIRH欠損細胞株は各種DNA損傷に対して顕著な感受性を示さなかったが、SHPRH欠損によってジーンコンバージョンと呼ばれる特殊な相同組換え修復が亢進することを示唆するデータを得た。RNF8遺伝子欠損株は、ポリ(ADP)リボシル化阻害剤オラパリブに対して強い感受性を示し、主要なポリ(ADP)リボシル化酵素であるPARP-1遺伝子欠損と合成致死であると考えられた。RNF20遺伝子は細胞の生存に必須であることが明らかになり、現在結合因子との結合部位を欠失した変異体の解析を行っている。また、SHPRH及びHLTFにエピトープタグを付加した遺伝子を安定発現するヒト細胞株をもちいて引き続きタンパク質複合体の精製を試みる。
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