研究概要 |
放射線や化学物質によるDNA損傷は複製DNAポリメラーゼの進行を阻害する。細胞はこのような鋳型DNAの損傷による複製ポリメラーゼの進行停止を解除し、適切に複製を再開する仕組みを複数備えている。近年、DNA複製停止解除機構は様々なタンパク質因子のユビキチン化によって厳密に制御されていることが明らかにされてきた。 本研究では、ニワトリB細胞株DT40を用いてDNA損傷応答に関与するユビキチンリガーゼSHPRH, RNF8, RNF20の遺伝子破壊細胞株の作製・解析を行った。SHPRH単独変異株は各種DNA損傷に対して顕著な感受性を示さなかったが、ジーンコンバージョンと呼ばれる特殊な相同組換え修復が亢進した。また、複製停止解除に関わるユビキチンリガーゼRAD18 の単独変異株はDNA鎖間架橋損傷剤であるシスプラチンに対して感受性を示すが、SHPRH/RAD18二重欠損細胞株は、RAD18単独欠損細胞株より強い感受性を示した。このことからSHPRHはDNA鎖間架橋損傷による複製停止解除においてRAD18と協調的に作用することが示唆された。一方、RNF8遺伝子欠損株は、トポイソメラーゼI阻害剤であるカンプトテシンやポリ(ADP)リボシル化阻害剤オラパリブに対して強い感受性を示した。また、RNF8変異は主要なポリ(ADP)リボシル化酵素であるPARP-1遺伝子欠損と合成致死になることが分かった。これらのことからRNF8はDNA複製に伴う相同組換え修復において作用することが示唆された。また、RNF8単独変異株及びRNF8/SHPRH二重変異株はシスプラチンには高感受性を示さなかったことから、RNF8はDNA鎖間架橋損傷による複製停止解除には関与しないことが示唆された。RNF20遺伝子は細胞の生存に必須であることが明らかになり、現在部分欠失変異体の解析を行っている。
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