研究課題
当該年度には、紫外線損傷の乗り越え複製における不活性型polηとREV1の相互作用が、polkを介した反応によって細胞が紫外線抵抗性を獲得するのに重要であることを明らかにした。この過程は突然変異を誘発しやすいことが考えられたことから、Na/K-ATPase遺伝子の変異を指標としたウアバイン耐性試験を行った結果、polkを持つ不活性型poh1発現細胞では紫外線誘発突然変異が優位に高いものの、polκを欠損した不活性型polη発現細胞においては紫外線誘発突然変異が全く観察されないことが新たに分かった。当該年度末までに、これらの知見をまとめた結果をGenes to Cells誌上で発表した。これに加えて、突然変異解析を行う紫外線照射量を2、4、8J/m^2と段階的に変えることで、polη欠損細胞とpolη polκ二重欠損細胞において突然変異率に差があることを示唆する予備的結果を得た。polιの紫外線損傷に対する生理的意義については未だ不明な点が多いことから、実験結果の再現性の確認を含め、不活性型polι発現細胞やREV1非結合型polk発現細胞を用いた実験を準備している。また、研究実施計画に従って紫外線損傷部位でのpolηの局在を確認したところ、正常polηと同様に不活性型polηも損傷部位に局在する結果が得られた。このことから、不活性型polηの発現によるpolη欠損細胞の紫外線抵抗性の回復が限定的である理由として、不活性型polηの損傷部位への局在が不十分であることが原因ではないと考えられる。現在、REV1とpolκの局在も同様に調べるため、各タンパク質の抗体作成やタグ付きタンパク質発現細胞の樹立を行っている。一方、不活性型polη発現マウスの作出については、ポジティブES細胞のスクリーニングなど最終的な段階まで進んでおり、最終年度に個体の作出と紫外線照射実験を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
細胞が紫外線抵抗性を示すために、損傷乗り越えDNAポリメラーゼ間の相互作用を介した新たな経路が発動するメカニズムを明らかにした点で、本申請課題で掲げる最も重要な研究目的が達成できたといえる。また突然変異解析から新たな発見の可能性も見えており、今後の解析で計画以上の成果が期待できる。一方で、細胞と対比させるべき個体レベルでの研究が予定より遅れていることから、おおむね順調に進展していると評価した。
細胞レベルの計画は順調に進展していることから、大幅な計画の変更は必要としない。具体的な研究内容としては当初の計画通りpolιの不活性型変異体発現細胞の解析を進め、紫外線損傷の種類に応じたTLSポリメラーゼの相互作用について解析を行う予定である。これに加えて当該年度の研究から明らかとなったpolκの関与について、polκ欠損細胞およびpolκ欠損マウスを利用した実験を新たに計画している。一方、東日本大震災の影響を受けて不活性型polnη発現マウスの解析に遅れがあることから、発がん実験の完了までを第一の目標としながらも、紫外線による皮膚照射で生じる突然変異の解析を重点的に行い、発がん実験に向けた基盤的研究となるよう軌道修正する。
すべて 2012 2011 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)
Genes to Cells
巻: 17 ページ: 98-108
放射線生物研究
巻: 46 ページ: 1-14
http://www-cc.gakushuin.ac.jp/~20080213/