研究概要 |
本研究は、フォスウィッチ検出器を用いた高エネルギー宇宙線中性子(10~200 MeV)のエネルギースペクトル測定により、人間の活動範囲である下層大気(0~15 km)中の宇宙線環境を解明することを目指している。本年度は、東京大学宇宙線研究所乗鞍観測所(高度2,770 m)及び鈴蘭連絡所(高度1,460 m)における宇宙線中性子の高度依存性観測実験(東京大学宇宙線研究所共同利用研究の一部として行われた)、及び幾つかの追試実験を実施した。前年度までに得られたデータも含め解析・考察を行い、宇宙線中性子の高度・緯度依存性や宇宙線線量計算プログラム計算結果との比較などに関して次の成果を得た。 弘前市(北緯40.6°)及び糸満市(北緯26.1°)における宇宙線中性子観測実験で得られた実測中性子スペクトルから、弘前市での80~100 MeVピーク(100 MeVピーク)の値が糸満市での100 MeVピークよりも大きいことが確認できた。これは緯度依存性を示している。なお、計算値と実測値それぞれにおけるピーク値の増加割合は同程度であった。次に、乗鞍観測所及び鈴蘭連絡所における宇宙線中性子観測実験の結果から、高度の上昇によって100 MeVピーク値と20~130 MeVの範囲で積算した中性子周辺線量当量率が増加していることが判った。これは高度依存性を示している。ただし、計算値と比較して実測値の増加割合は小さく、計算値と実測値との間に定量的な差異が認められた。以上から、精密な定量的検討などの課題を残してはいるが、フォスウィッチ検出器を用いた宇宙線中性子測定により宇宙線中性子スペクトルの高度依存性、緯度依存性を定性的に捉えることが出来たと言える。
|