エストロゲン活性を有する種々の内分泌撹乱化学物質類の学習記憶能ならびに関連する中枢神経機能に及ぼす影響と脳内エストロゲンシステムとの関連性を総合的に評価する目的で、本年度はゲニステイン(GEN;ダイズ等マメ科の植物に含まれるエストロゲン活性を有するダイズイソフラボンの一種)の効果について検討した。 本年度は、GEN周産期曝露が仔ラットの学習記憶ならびに中枢神経機能に及ぼす影響を調べる目的で、SD妊娠ラットに妊娠10日目から出産後14日目までの周産期間中に、1 mg/kg/day(Low群)および10 mg/kg/day(High群)のGENを経口投与し、出生仔ラットにおける空間学習記憶能・一般活動性・情動性・体験型学習記憶能について雌雄別に評価した。空間学習記憶を評価するMAZE testより、雄性および雌性仔ラット共にLow群、High群いずれもゴールまでのtimeは溶媒投与群に比較して有意に短く、学習記憶の向上が示唆された。雌性仔ラットでは、Low群の方がこの効果は強く現れた。一般活動性および情動性については、有意な変化は認められなかった。従って、GEN周産期曝露は仔ラットの学習記憶を特異的に向上させることが示唆された。 一連の本研究における周産期曝露実験より、ノニルフェノールはGENと同様に学習記憶を向上させるが、ビスフェノール Aは逆に学習記憶を阻害する結果が得られている。これは、それぞれの物質のエストロゲン活性の強さに相関し、比較的強いエストロゲン活性を有するものは学習記憶を向上させ、逆に弱い活性しか持たないものは学習記憶を阻害することを示唆し、エストロゲン活性からその物質の学習記憶に及ぼす影響が推測できるものと考えられる。 また、海馬内微量注入試験・各種受容体作用薬併用試験ならびにエストロゲン受容体免疫染色による脳内作用部位の検索については今後発表する予定。
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