研究概要 |
現代社会は、24時間型社会となり、労働時間や勤務形態が多様化し、生体リズムに変調をきたす深夜交代勤務者や夜型の生活をする人の数が増加している。しかしながら、環境汚染物質や食品中に残留する有害物質の安全性評価や健康影響評価を行う際、その多くは明期に被験物質を投与することが多く、時間生物学的な検討はほとんどなされてこなかった。そこで、本研究では、日常的に曝露される可能性が高いベンツ(a)ピレン(BaP)をモデル化合物として、マウスに明期(睡眠期)と暗期(活動期)にそれぞれ投与した場合や時差ぼけマウスに投与した場合の環境化学物質の生体影響について時間生物学的な視点から検討することを目的とした。本年度は、まず、4週齢の雄性C3H/HeSlcマウス(日本SLC)を午前8時~午後8時の12時間の明暗サイクル下で4週間順化ざせ、午前8時をZTO(ライトon)として、肝臓における時計遺伝子(Clock, Per1, Bmal1など)および時計遺伝子の制御下にある遺伝子(PPARα, AhRなど)、さらにBaPの代謝と発がんに関与する子(Cyp1A1, Cyp1A2, Gstm1, Sult1a1, Gadd45βなど)の日内発現リズムを検討した。その結果、時計遺伝子やその制御下にある遺伝子は明確なリズムを刻み、Cyp1a2やAhRの発現量は明期の後半に高く、暗期の後半に低いという典型的な日内発現リズムが見られた。一方、Cyp1a1の発現量には、顕著な日内発現リズムは見られなかった。明期と暗期の一定時刻にBaPを腹腔内投与し、上述の遺伝子の発現経過を調べたところ、Cyp1b1が暗期の投与により特に発現量が増大することがわかり、遺伝子により変動が異なっていた。今後、BaPのDNA付加体形成や血中の生化学マーカー、脂質代謝などへの影響について明らかにする予定である。
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