研究課題/領域番号 |
22510070
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
下位 香代子 静岡県立大学, 環境科学研究所, 教授 (10162728)
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研究分担者 |
榊原 啓之 静岡県立大学, 環境科学研究所, 助教 (20403701)
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キーワード | 時計遺伝子 / 生体リズム / 解毒代謝 / ベンツピレン / 遺伝子発現 / 日内リズム / 細胞周期 / 小核試験 |
研究概要 |
現代社会は、24時間型社会となり、労働時間や勤務形態が多様化し、生体リズムに変調をきたす深夜交代勤務者や夜型の生活をする人の数が増加している。しかしながら、環境汚染物質や食品中に残留する有害物質の安全性評価や健康影響評価を行う際、その多くは明期に被験物質を投与することが多く、時間生物学的な検討はほとんどなされてこなかった。そこで、本研究では、日常的に曝露される可能性が高いベンツ(a)ピレン(BaP)をモデル化合物として、マウスに明期(睡眠期)と暗期(活動期)にそれぞれ投与した場合の環境化学物質の生体影響について時間生物学的な視点から検討することを目的とした。4週齢の雄性C3H/HeSlcマウス(日本SLC)を午前8時~午後8時の12時間の明暗サイクル下で4週間順化ざせ、午前8時をZTO(ライトon)として、明期と暗期にBaPを投与し、骨髄に誘発される染色体異常の指標である末梢血中の網状赤血球中の小核誘発頻度を比較したところ、投与時刻による差は見られなかった。しかし、第I相酵素であるCYP、第II相酵素のグルクロン酸転移酵素(Ugtlal)のBaP投与後の肝臓、肺、骨髄における各遺伝子の発現解析を行ったところ、肝臓においては、Cy1a1p、Cyp1b1、Cyp1a2いずれの遺伝子も暗期投与群の方がより早い発現低下が見られた。また、ugt1a1の発現は、明期投与群では投与後48時間後に有意な増加を示したが、暗期投与群ではほとんど誘導されなかった。骨髄細胞と肺においては投与時刻によりCyp1a2の発現に違いが見られた。一方、BaPとはDNA損傷の種類が全く異なるアルキル化剤のENUを明期と暗期に投与したところ、小核誘発頻度に違いが見られ、暗期に投与する方がより誘発率が高いことがわかった。これらの結果は、化学物質の種類により明期と暗期での生体応答が異なり、また、臓器によっても応答が異なることを示しており、化学物質の安全性評価に時間生物学的な視点を考慮していくことが重要であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脂質代謝関連の遺伝子発現への影響については、まだ結果が出ていないが、既に実験済みで試料を保存してあるので、平成24年度に検討できる。時差ぼけマウスについては全く検討できなかったが、当初予定になかったENUについて検討でき論文化できた。よって計画はおおむね順調に進展していると思う。
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今後の研究の推進方策 |
BaPの場合、骨髄における染色体異常の指標となる小核試験において明期と暗期の投与に違いが見られなかったが、アルキル化剤でありBaPとは全く異なるDNA損傷性を示すENUは、明期と暗期の投与で有意な差が見られたので、当初の予定にはなかったが、ENUの明期と暗期の骨髄における影響について今後メガニズムを検討することとした。また、脂質代謝への影響と時差ぼけマウスにおける検討を今後行い、研究をまとめたいと考えている。
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