研究概要 |
本研究では、日常的に曝露される可能性が高いベンツ(a)ピレン(BaP)とN-エチル-N-ニトロソウレア(ENU)をモデル化合物として、マウスに明期と暗期にそれぞれ投与した場合の環境化学物質の生体影響について時間生物学的な視点から検討することを目的とした。4週齢の雄性C3H/HeSlcマウスを午前8時~午後8時の12時間の明暗サイクル下で4週間順化ざせ、午前8時をZT0(ライトon)として、明期(ZT3)と暗期(ZT15)に各化合物を投与した。昨年までの研究により、末梢血中の網状赤血球中の小核誘発頻度を比較したところ、BaPは投与時刻による差は見られなかったが、ENUについては、暗期に投与する方がより誘発率が高いことがわかった。そこで、本年度は、ENUについては、明期と暗期での生体応答が異なる機序を解明するために、ENU投与後の骨髄細胞を採取し、細胞周期(G0/G1、S、G2期)をフローサイトメトリーにより測定するとともに、RT-PCRを用いてDNA修復酵素(MgmtおよびMlh1)やp53遺伝子の標的遺伝子(p21, Bax, Cyclin G1)の発現を調べた。その結果、細胞周期の割合には大きな影響はなかったが、各遺伝子発現は明期に投与した方が影響を受けており、DNA修復能力が高まっている可能性が示唆された。一方、BaPについては、投与後の血液生化学マーカーおよび肝臓の脂質代謝関連遺伝子の発現について検討したところ、明期でも暗期でも脂質分解に関与するPPARα遺伝子の発現が減少し、脂質合成に関与するFAS遺伝子が、暗期に投与するとより増加し、BaPは暗期に脂質代謝に影響を与えることが示唆された。これらの結果は、化学物質の種類により明期と暗期での生体応答が異なることを示しており、化学物質の安全性評価に時間生物学的な視点を考慮していくことが重要であることが示唆された。
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