研究概要 |
家庭や地域において日常的に頻繁に使用されている、昆虫忌避剤(DEET:N,N-diethyl-m-toluamide)やピレスロイド系防虫剤の細胞機能に及ぼす影響を検討した。 1.ヒト白血病細胞(HT93)の活性型レチノイン酸による好酸球様への分化誘導:分化の指標として形態変化、転写因子GATA-1の発現、サイトカイン(エオタキシン-2)の産生とその受容体CCR3の発現に着目してDEET(0.3-1mM)の影響を検討した。DEET存在下で、形態変化や転写因子GATA-1発現に大きな変動はみられなかったが、CCR3発現は抑制傾向がみられた。分化誘導後、種々のサイトカインで刺激し、エオタキシン-2産生を検討したところ、DEET存在下で分化誘導した細胞ではインターフェロンγによる産生が増強されたため、分化の方向が変化する可能性が考えられた。一方、ピレスノイド系防虫剤のアレスリン(25~100μM)は、核の断片化を伴う細胞死を誘導した。アレスリンによる細胞死では、刺激後2~4時間でカスパーゼ3の活性化が、8時間後には核の断片化が検出された。 2.ラット由来マスト細胞(RBL-2H3)に対する作用:DEETは抗原依存性脱穎粒反応を弱く抑制した。抗原刺激後、一部の細胞内シグナルの活性化が持続的に認められたため、サイトカイン産生に及ぼす影響を検討した。抗原刺激24時間後のIL-10,IL-4,IL-6およびTNFα産生は、低濃度のDEETでは抑制されたが1mM以上では抑制されなかった。また、アレスリンは抗原依存性脱顆粒反応を抑制したが、一部の細胞内シグナルの活性化もおこした。アレスリンはDEETと異なり、抗原非存在下でも単独で細胞内シグナル(ERK,Sykなど)の活性化および脱顆粒を誘導したことから、抗原に依存せずマスト細胞を活性化する可能性が考えられた。
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