研究概要 |
内分泌かく乱物質の次世代への影響が問題になって久しいが、その実体や機序は未だ明らかでない。特にヒトやほ乳類におけるデータは乏しい。本研究で私どもは、胎生期および授乳期に2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin(TCDD)に暴露された仔アカゲザルに新規腎形成異常を高頻度に見出し、その障害部位の同定と発生機序を解析した。同時に、生殖器を含む他臓器の病変も評価した。83頭の仔アカゲザルを7年間経過観察し、比較的高用量(300ng/kgBW)のTCDDを投与された母体から生まれた仔アカゲザルにのみ29頭中17頭(58.6%)で腎病変の出現が認められた。30ng/kgBW群ではみられず、現在本邦で設定されているダイオキシン類の耐容一日摂取量(TDI、4 pg/kg/日)の妥当性を示唆していた。この腎病変はヒトのrenal dysplasiaに近い病変と判断され、TCDDによる腎障害としてこれまで報告されていない病変であった。ネフロン単位の脱落および形成不全とともに、血管内膜の病変が同定された。腎全体におけるレニン・アンギオテンシン系の異常を示す所見はなかった。しかし、生後早期死亡例の腎内動脈内皮細胞および緻密斑におけるCOX-2、CYP1A1の発現増強が認められ、腎病変の発生機序にCOX-2-prostaglandin系が関与している可能性を明らかにした。腎組織内mRNA 及びmicroRNAの網羅的解析結果は腎病変の病態を反映していた。腎病変は、歯の形成異常を伴う例に多くみられたが、唾液腺病変あるいは骨組織の病変、及び生殖器病変や生殖能力との関連は明らかでなかった。 TCDDによる新規腎形成異常を明らかにし、COX-2-prostaglandin系が関与する可能性が示した。また、本邦における耐容一日摂取量の妥当性が示唆された。
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