研究課題/領域番号 |
22510074
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
高田 耕司 東京慈恵会医科大学, 医学部, 准教授 (30179452)
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研究分担者 |
加藤 尚志 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (80350388)
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キーワード | 有害化学物質 / 異常蛋白質 / トキシコロジー / 環境分析 / ユビキチン |
研究概要 |
モデル株化細胞の評価においては、近位尿細管上皮由来HK-2細胞,神経芽細胞腫由来Neuro2A細胞,繊維芽細胞由来NIH/3T3細胞に加え、肝細胞癌由来FLC-4細胞と神経芽細胞種SH-SY5Y細胞の単層培養系を加え、塩化カドミウム(Cd)、メチル水銀(MeHg)、パラコート、および過酸化水素のEC_<50>濃度域での細胞毒性を比較した。その結果、Cdに関しては、すべての細胞でユビキチン化タンパク質の顕著な量的増加が観察された。MeHgでは、HK-2細胞において明確に同様の現象が再現された。一方、パラコートおよび過酸化水素の曝露では、何れの細胞においてもユビキチン化タンパク質の細胞内量は一定に推移し有意な変動を認めなかった。これらの結果より、細胞内タンパク質の異常化は、重金属系有害物質の評価に有用と推定される。また、この評価系に用いるモデル細胞として、HK-2細胞の有用性が再確認された。Cd曝露がもたらす細胞内現象を個体レベルで検証するため、3週間に渡って連日Cd(kg体重あたり2~3mg)を投与したマウスの腎臓および肝臓のユビキチン化タンパク質を定量したところ、ユビキチン化タンパク質の量は腎臓においてのみ投与量依存性に増加し、臓器特異的な現象であることが示唆された。 ユビキチン化タンパク質の定量に用いるポリユビキチン鎖ELISAに関しては、新規標準品(Ub_<10>直鎖)に基づく測定値と従来の標準品(MUCRP1)によるものとの比較のため換算係数を求めた。その際、凍結保存下のMUCRP1には脱ユビキチン化による部分的な分解が認められた。Ub_<10>直鎖の保存安定性は今後の検討課題である。この他、組織中のユビキチン化タンパク質の定量分析を環境評価に応用するため、金沢大学と東京大学の各臨海実験所においてムラサキイガイの定期的サンプリングを開始し継続中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)化学物質に対して高い再現性で安定的に応答するHK-2細胞をモデル株化細胞として見出したこと、(2)ポリユビキチン鎖測定用ELISAにおいて懸案の新規標準物質が選定されたこと、(3)現行の評価系によって特定の化学物質群の細胞侵襲が評価可能であると確認されたこと、(4)環境評価の応用研究に利用するムラサキイガイのサンプリングが他施設の協力を得て順調に推移していること、(5)LC-MS/MSによるプロテオミクス解析の基盤を確立したこと。以上の成果から、おおむね順調な進捗状況と判断される。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの検討から、化学物質による難溶性ユビキチン化タンパク質の生成能においてヒト腎近位尿細管由来HK-2細胞の有用性が確認されたため、同細胞を用いたプロトコールに基づき、特性の異なる各種化学物質の有害性を評価する。また、この手法を環境評価への応用研究に進展させるため、石川県鳳珠郡能登町と神奈川県三浦市でのムラサキイガイの採取を継続し中腸腺を中心とした組織中の難溶性ユビキチン化タンパク質の定量を進める。有害物質が誘導する難溶性ユビキチン化タンパク質の性状は、LC-MS/MSやペプチドシーケンサーによる成分同定に加え、ユビキチン鎖のタイプに特異的な抗体を用いたWestern blotを用いて解明を目指す。
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