哺乳類由来の各種培養細胞を用いた昨年度までの検討から、ポリユビキチン鎖の細胞内量はカドミウムによる細胞毒性の強度に対応して遷延性に増加した。一方、こうした現象はメチル水銀では一部の細胞種に限定され、パラコートや過酸化水素では明確に観察されなかった。今年度はこれらの物質による細胞毒性の発現機序を解析した。ポリユビキチン鎖の大半は標的タンパク質に付加した分解シグナルであり、その変動はユビキチン-プロテアソーム系によるタンパク分解の状態を反映する。そこで、ユビキチン-プロテアソーム系に作用する薬剤がカドミウムの細胞毒性に対してどのような影響を与えるか、ヒト近位尿細管上皮由来HK-2細胞を用いて検討したところ、プロテアソーム阻害剤とユビキチン活性化酵素E1阻害剤は細胞のカドミウム感受性を高めたが、プロテアソーム活性化剤(脱ユビキチン化酵素USP14阻害剤)はカドミウム耐性を増強させた。これらの結果からユビキチン-プロテアソーム系がカドミウム毒性に対する保護作用を担い、その破綻が毒性発現に関与する可能性が明らかとなった。また、免疫細胞化学による解析から、カドミウムはユビキチン化タンパク質の細胞内輸送系に作用することが示唆された。化学物質に起因する細胞毒性の制御を目的として、様々な培養条件下でのHK-2細胞に対する各種毒性を比較したところ、低酸素環境では、カドミウム、メチル水銀、パラコートの何れにおいても半致死濃度の曝露による細胞死が抑制された。これは低酸素条件で活性化される転写因子HIF-1による現象と考えられる。今後、こうした知見の関連性を明確にすることで各化学物質よる細胞毒性の機序解明につなげたい。
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