研究概要 |
1.基質目詰まり抑制技術の検討について 本研究開発で想定している気孔径を持つ基質については,本研究開始前の準備段階で海域に設置しており,機能の持続性について,既存技術に対する優位性が長期的にも発揮されているかどうかを確認するため,連続空隙率を指標とした目詰まりに関する定量的評価を行った,その結果,設置後3年が経過した時点でも目詰まりがほとんど認められなかった.この結果を基に,粒径の大きな鉄鋼徐冷スラグを骨材とした水質・底質浄化および稚魚の初期減耗を抑制可能な「餌場」と「保護・育成場」の条件を同時に提供できる施設を新たに開発した.その後,本施設を海域に設置後,有用魚種であるキジハタ稚魚を放流し,歩留まりを調査した.通常の岩礁帯への放流方法では,放流1カ月後の時点で,歩留まりは1%以下という現状に対して,本施設による歩留まりは,10%強を確保できた.これは,現在,加速して減少している水産資源生産力に歯止めをかけるために有効な技術となり得る. 2.水質・底質浄化機能評価結果の比較検討 多孔質体に天然無機素材(HAP)を混入することにより,水域で深刻化する有害金属類の溶出を抑制し,安定不溶化する技術を開発した.多孔質体を湖底(香川県府中湖)に設置し,水質・底質浄化機能の評価を行った結果,鉄,銅,鉛,マンガン,カドミウム等の金属を70~90%吸着かつ安定不溶化することを確認した.また,スラグの材料特性により,植物プランクトン優占種を制御可能であることを検証した.これは,既存のポーラスコンクリート,護岸材および河床材では実現が困難であった,高度な環境改善材として有効な技術となり,成果の一部は香川県湖畔の護岸工法として実用化された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
基質目詰まり抑制技術の検討については,当初の予定通り,連続空隙率を指標とした評価を行い,機能の持続性を確認できた.水質・底質浄化機能評価結果の比較検討については,計画通りの現地実験を行い,水質.底質改善が確認されたことから,開発した多孔質体が高い金属吸着機能を有することを検証できた.
|
今後の研究の推進方策 |
今後は,有用水産資源が特に餌料として摂取する選好性餌料生物に関する分析を実施する.さらに,これまで不明であった海藻表面に着生した葉上生物も含めた定量的な餌料生物培養機能を評価する予定である.調査のための船舶および自航式水中ロボットも使用可能な状態であるので,計画通りの研究が遂行されるものと考える.また,淡水域では,水深帯の問題に応じた多孔質体の仕様を決定し,既存の護岸技術に対する優位性を検証する.
|