研究概要 |
発電所、工場、自動車等で生産されるエネルギーの実に7割近くが廃熱として無駄に捨てられている。しかし廃熱は熱エネルギーとしての質が悪く発電に利用できなかった。熱電変換素子を使って廃熱の一部でも電気エネルギーに変換できれば、エネルギーリサイクルという観点から効果的である。熱電素子の性能は ZT = S2σT/κ で表されるが(S:ゼーベック係数、σ:電気伝導率、κ:熱伝導率、T:温度)、ZT値が2以上あれば熱電素子による発電(熱電発電)が実現できると言われている。しかし既存材料は最高でもZT = 1程度であり、熱電発電に用いることができない。ZT向上のためには高σと低κを同時達成する必要がある。 ナノ構造制御された熱電材料(ナノ熱電材料)は、フォノンとキャリアの平均自由行程の中間の周期で粒界を持つ構造を有するため、電気伝導を阻害せずにフォノンを選択的に散乱することでκを低減でき、大幅なZT向上が可能となる。本研究では、バルク材料でも室温で高いZTを示すことで知られているBi、SbおよびTeの合金[p型(Bi,Sb)2Te3]及びZnとSbの合金(ZnSbやβ-Zn4Sb3)のナノ粒子を化学合成し、それらをビルディングブロックとして超格子構造を作製することによって、ナノグレインバウンダリーを有した高ZTナノ熱電材料を創製することに挑戦した。得られた成果は次のとおりである。(1) 単相p型(Bi,Sb)2Te3のナノワイヤの合成方法を世界で初めて確立した。(2) (Bi,Sb)2Te3ナノワイヤの高次構造を塗布プロセス・加熱処理によって固体基板上に作製し、そのゼーベック係数を測定したところ+211 μV/Kであり、バルク材料と遜色無い値を示した。(3) ZnSbのナノ粒子の合成方法を世界で初めて確立した。
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