申請者は最近、レーザーアブレーションによって生成した銀ナノ粒子を溶媒上に直接噴霧すると、液面上でナノ粒子が自己組織化することにより、ロッドあるいはチューブ状の凝集構造が形成されることを見出した。ナノ粒子の表面が無修飾で、組織化にリガンド分子が関与していないこと、および生成物の構造の特異性等、この現象はこれまで報告されてきた金属ナノ粒子の自己組織化現象とは異なる重要な要素を含んでいる。本課題では、この現象を新たなボトムアップ型ナノ-マイクロ構造作製法として利用するために必要な、自己組織化現象のメカニズムの解明と、構造制御法の探索を行うことを目的としている。 昨年度は、本レーザーアブレーション法で作製したナノ粒子の溶液中における安定性について詳細な解析を行った。金、銀、銅のナノ粒子を作製し、吸収スペクトルの変化から凝集速度を比較した。その結果、金は非常に安定性が高く、数日間コロイド状態が維持されるのに対し、銀、銅ナノ粒子は作製直後から凝集が始まることが明らかになった。さらに、凝集を防止する高分子保護コロイドを添加した溶液を用いた場合、金ナノ粒子に対しては保護効果が現れるのに対し、銀、銅ナノ粒子では現れないことが明らかになった。このことから、銀や銅ナノ粒子は、溶液中に分散すること無く、液面上で凝集すると考えられる。これらの結果は、銀ナノ粒子の自己組織化がナノ粒子が液面上で凝集して起きる現象であるという予想を支持するものであり、凝集のしやすさが自己組織化に強く関与していることを示している。さらに、銀と銅の凝集のしやすさに対する類似性から、再度銅ナノ粒子の構造について観察を行ったところ自己組織化の一種とみられる構造を見いだすことが出来た。
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