研究概要 |
金・銀を中心とする金属ナノクラスターの効果的なポストキラル変換反応探索を行い、得られたナノクラスターの電子状態・不斉光学応答を評価する事を目的とした。まず、アキラルな配位子で修飾された金属ナノクラスターの合成からスタートするが、ポストキラル変換には配位子の高い反応性を必要とする。その様な配位子としてボロン酸に注目し、本年度は「アキラルボロン酸修飾金属ナノクラスターのポストキラル変換とその評価」を中心に研究を行った。フェニルボロン酸(Ph-B(OH)_2)は、キラル単糖類のグルコースやフルクトースなどの1,2-ジオールとエステル結合して安定なボロン酸エステルを形成する。この反応は水溶液系で行うことができるためにその応用範囲が広く、これを本研究のナノクラスター配位子反応系に適用した。その結果、メルカプトフェニルボロン酸を配位子に用いる事によって直径1.1nmの金ナノクラスターを作製することに成功した。尚、粒子径及びその分布は、リガクの佐々木博士の協力によるX線散乱測定によって決定した。このナノクラスターを用いて、キラルな糖類の一種であるフルクトースとの反応を試みたところ、表面配位子とフルクトースの結合が確認され、その結果、不斉光学応答(円二色性:CD)が現れた。またその不斉光学応答は金属コアの遷移に由来するものであった。一方、電子吸収スペクトルに変化はなく、コア自身の歪みは無いものと推察された。これは本研究代表者が提案する不斉場モデルを強く支持するものであった。更に、研究の発展を目指して磁場強度の強い永久磁石からなる磁気円二色性(MCD)測定のためのアクセサリーを購入し、現有設備のCD分散計にこれを取り付け、その測定に取りかかった。現在予備的な結果ではあるが、金あるいは銀ナノクラスターにMCD信号が現れること突き止め、これを解析中である。
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