研究課題/領域番号 |
22510104
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
八尾 浩史 兵庫県立大学, 物質理学研究科, 准教授 (20261282)
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キーワード | 金属ナノクラスター / ポストキラル変換 / 光学活性 / 不斉誘導 / 円偏光二色性 / 不斉場効果 / 磁気円二色性 / 配位子変換 |
研究概要 |
キラルなチオール配位子で保護された金属ナノクラスターの不斉光学応答に関する研究は最近大きな進歩を遂げ、特に、Au-S結合を巻き込んだ表面が大きな不斉光学応答の原因を担っている事が金25量体の研究を通して明らかになりつつある。しかし、一筋縄ではいかないナノクラスター系も多く、詳細なメカニズム決定には至っていない。本研究者もそのメカニズム解明に向けて研究を遂行しており、本年度は表面が反応活性を示す置換基で修飾された金属ナノクラスターのポストキラル変換を試み、その不斉光学応答の詳細を調べる事、更には、昨年度導入した磁気円二色性測定を通してクラスターが持つ電子状態の解明を試みる事を中心に研究を行った。具体的には「表面アミノ基のキラル誘導体化と円二色性応答の評価」である。アミノ基は反応性の高い官能基であり、表面にアミノ基を持つナノクラスターをキラル誘導体化すればその不斉場の影響を顕わに調べる事が可能となる。反応はエチルイソシアネートを用いたウレア結合生成による配位子化学変換を採用した。ウレア結合生成により配位子の構造は変化するが、その反応進行度の多様性によって「配位子の長さ」が種々異なった金ナノクラスターの生成が確認された。即ち、アミノ基の1つの水素原子を起点としてウレア結合が生成するとエチル基分の長さだけ表面配位子は「伸びる」。しかし反応が更に進行するとウレアの水素原子が薪たな起点となって更に配位子の長さが伸長する。この様な状況の下、様々な配位子長を持った金ナノクラスターが生成したのである。これらをサイズ分画し、同じサイズの試料で電子スペクトルを比較するとそれらは全く同一である一方、円二色性応答には違いが見られた。これはまさしく「不斉場効果」である。また、金ナノクラスターの磁気円二色性(MCD)の測定も世界に先駆けて開始しており、ナノクラスター系に特徴的と考えられる信号得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の主たる研究目的は、反応活性を持つ置換基で表面修飾された金属ナノクラスターの作製とそのポストキラル変換、そのクラスターが発現する不斉光学(CD)応答の解析とメカニズム探求、更には、磁気円二色性測定によるナノクラスターの電子状態の解明を試みる事であった。本目的の達成に向けて、キラルアミノ基を有する配位子で表面修飾された金ナノクラスターを作製、それを化学反応させて配位子の長さ(構造)を変化させる事に成功した。その試料に対してCD応答を詳細に調べた結果、クラスターのサイズが同じならば電子吸収スペクトルに「配位子の長さ」依存性はなく、CDスペクトルにのみ変化を捉える事ができた。これは本研究者が提案する「不斉場効果」の確固たる証拠である。更に、磁気円二色性の測定も行い、ナノクラスターに特徴的な信号を得ることができた。以上の成果は目的が順調に進展している事を示しており、今後もその進行の手は緩めない。
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今後の研究の推進方策 |
本質的には研究計画に変更はなく、金属ナノクラスターのポストキラル変換を通じてその光学活性性能発現の詳細な挙動解明を行っていく予定である。更に今後は、発展的展開を考慮して新しいポストキラル変換を目指し、「アキラルナノクラスター間のポストキラル連結を利用したナノクラスターベースの立体化学とナノクラスター間相互作用の研究」に挑戦する。2分子系の励起子キラリティに関する不斉光学応答の概念は確立されているが「2ナノクラスター系」に関するものは当然無く、新しい試みである。まずは、通常の分子系で観測されているダビドブ分裂様の現象がナノクラスター系でも観測されるのかが興味の対象となる。従って、ナノクラスター同士のキラル連結手法を開発が課題となろう。いずれにせよハードルは高いがこれを推進していく所存である。
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