二層グラフェンが、二層を貫通する原子欠損領域(欠陥)を持つとき、欠陥に生じた端を上下の層にわたってつなぐと、閉じた端で囲まれた孔ができる。この孔を数多く形成すると、二層グラフェンの多孔構造ができる。二層グラフェンの多孔構造は、極端に短いチューブでグラフェンを接合したものともみなせる。電子材料や磁性材料としてグラフェンを応用する上で、端の存在は早くから注目されて来たが、近年、熱処理によって多層グラフェンの端が融合するという報告が相次いでなされ、グラフェンに「閉じた端」を与える道が開かれた。しかし、現在は閉じた端の形や配置を制御できる段陀になく、材料としての可能性は未知数である。そこで本研究では、閉じた端を持つ理想的な構造として二層グラフェンの多孔構造に焦点を当て、その構造探索と電子状態計算とを行うことで、新規材料としての可能性を理論面から明らかにすることを目的とする。 可能な構造を網羅する構造発生アルゴリズムを構築する一環として、初年度は、トポロジーと対税性を利用した構造発生アルゴリズムを検討した。具体的には、閉じた端で囲まれた孔(ミクロ孔)がカイラリティを持たず、かつ周期的に配置された構造に限定して、その可能な構造を発生させる方法を検討した。その結果、ミクロ孔が12枚の7員環を持つ最も単純な場合、このミクロ孔が3配位または(配位のネットワークを作るように周期的に配置した構造に対しては、構造を決定するパラメタを明らかにすることができた。また、小規模な構造のいくつかに対しては、強結合モデルに基づく電子状態計算を行い、構造パラメタと電子状態との関連を調べた。
|