本研究は、X線回折実験において試料と試料保持機構の接触を本質的に排除し、純粋な物性研究を行なうために、光トラップを用いた非接触式試料保持機構の開発を行なうことを第一の目的として実施された。また非接触式試料保持機構は、X線回折実験において、試料保持機構に由来するバックグラウンドを本質的に排除し得る要素技術である。このバックグラウンド低減効果を実証し、非接触式試料保持機構を実用化することを目的としている。平成22、23年度には、(a)空気中で微粒子(380nm~5μm)に対する光トラップを実現し、(b)試料保持ユニットの作成を完了させた。この結果を受けて、平成24年度は、(c)X線回折実験におけるバックグラウンド低減効果の実証、(d)非接触に保持された微粒子の物性測定、を研究の目的とした。平成24年度に得られた研究成果は主に下記の2点である。 (1)X線回折実験におてバックグラウンドの低減効果を実証した。SPring8(BL40XU)にてX線回折実験を行い、ガラスピンにアラルダイトを用いて試料粒子を接着した従来の方法と、光トラップされた試料粒子1粒のX線回折像の比較から、従来法と比べて37%のバックグラウンド低減効果を実証した。 (2)CeO2ナノ粒子の格子収縮を観測した。非接触に保持された1粒のCeO2微粒子(粒径380nm)のX線回折実験を行ったところ、約1.3%の格子収縮を観測した。格子収縮の原因は現在、532nmのトラップ用レーザーの照射を受けた試料が2光子吸収を起こし電子状態が変化し格子が歪んだためと考えている。 本研究の意義及び重要性は、非接触に保持されたナノ微粒1粒の試料に対して、X線回折実験を初めて可能にしたこと、及び当該状況下において格子収縮という特異な状態を観測したことにある。
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