研究課題/領域番号 |
22510111
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
目良 裕 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任講師 (40219960)
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キーワード | ナノ計測 / ナノ時間分解 / 走査プローブ顕微鏡 |
研究概要 |
本研究は走査トンネル顕微鏡(STM)と短パルス広帯域レーザー光源を用いて、3次元実空間でナノスケールの分解能と、時間空間でピコ秒の分解能、エネルギー空間で0.1eVの分解能を併せ持つ、5次元空間を高分解能で観測する光吸収分光システムを試作することを目的とする。今年度は以下の研究を行った。 1.SC光を用いたSTMフーリエ変換光吸収分光測定のS/N向上 標記実験系を組み立て、STM光吸収分光において、光源としてSC光を用いる際の問題点の洗い出しとその解決をおこなった結果、フォトニッククリスタルファイバーで発生させるSC光(白色光)の強度が予想していた値より弱かったため、予定していたシグナル強度での実験が困難となっていることが判明した。白色光強度が弱くなっている原因を調査した結果、ファイバーへの集光光学系の集光度が不足していることが原因の一つであることがわかった。このため、集光光学系を再検討・再構築し、シグナル強度を向上させることができた。 2.時間分解光STM測定の理論的解析 本研究では、パルスレーザーによるポンプ・プローブ法を用いた時間分解測定をSTMと組み合わせることで、空間分解能と時間分解能を併せ持つ測定装置を試作しようとしている。このとき、測定される物理量はトンネル電流であるが、パルス光がどのような機構、過程を通じてトンネル電流に変化を生じるかは複雑で、時間分解STM 信号を適切に測定するための条件については十分な理解が得られていなかった。そこで時間分解光STM測定の第一人者である筑波大学重川教授のグループと共同で、時間分解STM の信号に関するモデルシミュレーションを行い、それを実験データと 比較することで、バルクにおけるキャリア再結合や、ギャップ内準位を介したキャリア再結合などのダイナミックスを、時間分解STM を用い正しく評価するための条件を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
標記実験系を組み立て、STM光吸収分光において、光源としてSC光を用いる際の問題点の洗い出しとその解決をおこなった。SC光を用いたFT変調STMナノ光吸収測定には成功し、これ自体はパルス光を用いたナノ光吸収測定という新しい結果であるが、フォトニッククリスタルファイバーで発生させるSC光(白色光)の強度が予想していた値より弱かったため、予定していたシグナル強度での実験が困難となっていることが判明した。白色光強度が弱くなっている原因を調査した結果、ファイバーへの集光光学系の集光度が不足していることが原因の一つであることがわかり、集光光学系を再検討・再構築する必要があった。 また、メインの装置となるSTMが長期間不具合で正常に動作せず、空間分解能を評価する実験も完了できていないため、やや遅れいていると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、当初研究計画で目標としていた、時間分解測定と空間分解測定の実現に向けて研究を進めていく。 そのためには、さらなるシグナル強度の増強が必要と考えられるが、そのための対策として、試料のドープ濃度を適切な値に設定することが重要である。これまでの研究で、光変調に対するトンネル電流変化は、ドープ濃度が低いほど大きいことが実験的、理論的に判っている。しかし、低ドープではSTM測定の安定度が低くなるため、これまでは比較的高いドープ濃度の試料を用いていた。これを最適な値に設定することで、安定し、かつS/Nの高い測定条件とし、時間分解能および空間分解能を持ったナノ光吸収測定を実現させる方針である。
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