本研究は走査トンネル顕微鏡(STM)と短パルス広帯域レーザー光源、およびフーリエ変換分光装置を用いて、3次元実空間でナノスケールの分解能と、時間空間でピコ秒の分解能、エネルギー空間で0.1eVの分解能を併せ持つ、5次元空間を高分解能で観測する光吸収分光システムを試作することを目的とする。今年度は以下のことを行った。 1. バンド構造を通常のSTM-光吸収(PAS)測定法より精度よく測定できるSTM-電場変調分光法(STM-EFMS)に、スーパーコンティニュアム(SC)光を光源としたフーリエ変換光を適用するための測定システムを構成し、STM-FT-EFMS測定を試みた。フーリエ変換光を光源とし、トンネル電流をインターフェログラムとして記録することで、測定を短時間で行うことが期待できる。実験の結果、インターフェログラム信号には、試料のSTM-FT-PAS信号も重畳してしまうことが判明した。しかし、EFMSとPAS起源の信号の性質の違いを利用し、信号の位相差を考慮した適切な測定条件を選ぶことで、STM-FT-EFMS信号に混入するPAS成分を最小にし、STM-FT-EFMS成分だけを分離することができることが分かった。抽出されたSTM-FT-EFMSスペクトルには、試料のGaAsの吸収端である1.43eVに、EFMSスペクトルに特徴的な振動構造があり、本手法でバンド構造を測定できることが示された。
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