研究概要 |
パルスレーザーアブレーション(PLA)法は,クリーンな生成環境を実現できるため,表面積/体積比率が大きく,汚染の混入に敏感な機能性ナノ粒子の創製方法として最適といえる.本年度は,酸素(O_2)をバックグラウンドガスとするPLA法を,酸化チタニウム(TiO_2)ナノ粒子の創製に適用し,簡単なプロセスパラメータの調整により,構造と機能を制御することを試みた.具体的実験条件としては,焼結TiO_2ターゲット(ルチルとアナターゼの混合)に,Q-スイッチNd-YAGレーザー光(355nm,10mJ/pulse,2-8J/cm^2)を集光照射した.生成TiO_2ナノ結晶中の0欠損の補償を目的として,雰囲気ガスとしてO_2を導入した.対向堆積基板には石英ガラス,Si基板を加熱せずに用いた.生成TiO_2ナノ粒子の結晶性に及ぼす影響を調べるために,基本プロセス条件を,O_2ガス圧力は26-260Pa,ターゲット/基板(T/S)距離は8-20mm,の範囲で変化させた.結果としてえられた知見を列挙する. 1 O_2ガス圧力あるいはターゲット-基板間距離の調整により,結晶構造を制御することが可能である(非晶質から準安定相アナターゼを経て安定相ルチルまで). 2 1はターゲットからの射出種の冷却過程(速度)により,説明することができる. 3 堆積されたTiO_2ナノ結晶に対して,短時輻射加熱を処すことによっても,結晶性の向上や,結晶構造の変態を実現できる. 43により光触媒活性を向上させることも可能であり,平均粒径5nmレベルでのTiO_2ナノ結晶では,アナターゼとルチルによる明確な差異は見出されなかった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)汎用性の高いTiO_2ナノ粒子の作製において,堆積モフォロジー(体表面積比率)と結晶性(ルチル,アナターゼ)の制御方法を構築した,2)短時間輻射加熱法の導入により,ナノ粒子間の焼結を抑えつつ,結晶性を向上させることに成功した.3)上記のTiO_2ナノ結晶に対して,光触媒機能評価を本格的に開始した.4)可視光応答型光触媒材料である,NiO/(InNiTaO_4)ナノ結晶複合構造体の創製プロセスを構築した.5)しかしながら,可視光応答型の高機能光触媒の機能評価が未だに着手である.
|
今後の研究の推進方策 |
InNiTaO_4を主触媒とし,助触媒ナノ粒子(NiO)担持による表面修飾がなされた,ナノ複合構造体を創製するプロセスの構築に重点を置いた研究方針とする.助触媒ナノ粒子(NiO)の生成においては,反応性PLA法によればナノ結晶が自己組織化的に,ウェブ(編み目)状配列を構成するプロセスを,すでに確立している.本年度は,本研究課題最終年度であるため,到達目標である,高機能可視光応答型の光触媒ナノ複合構造体を目標として,NiO/(InNiTaO_4)ナノ結晶複合構造体を創製する.特に,NiO/(InNiTaO_4)ナノ結晶複合構造体では,助触媒ナノ粒子を主触媒堆積膜上に,2次元的にウェブ状に配列することが可能なので,電子-正孔の空間的電荷分離が有効に実現できるものと予想している.すなわち,ナノ複合構造体最表面がNiO助触媒の領域には電子を,主触媒InNiTaO_4の領域には正孔を,表面露出までのエネルギー障壁の差により,分離させるものである. 創製されたNio/(InNiTaO_4)ナノ結晶複合構造体に対して,詳細な結晶構造評価と紫外-可視域光物性評価を行い,バンド構造形成に対する電子論的解析を行う. さらに光触媒としての機能検証を進める.可視光励起により,メチレンブルーの分解機能評価を経て,メタノール溶液中でのH2の発生機能を評価する.このH_2発生の評価には,これまでに構築したガスクロマトグラフを中心に構成する,発生ガス分析系を用いる.
|