本研究では、100キロ塩基対を越えるDNAを対象として、1分子レベルでDNAの高次構造変化を計測することを中核的な方法論としている。各種抗がん剤や環境変異原物質等の環境ストレスによって引き起こされるDNAの高次構造変化を計測し、その結果を、二次構造変化とも対比させて解析を進める。さらに、各種放射線など、様々な環境因子によって引き起こされるDNA損傷の中でも最も重篤であると考えられる二重鎖切断反応の効率を、その高次構造との関連で定量的に解析することも、重要な課題として位置づけている。 平成22年度は、以下の成果が得られた。 1. 蕎麦の実に多く含まれるルチンや柑橘類の皮に多く含まれるヘスペリジンのグルコース誘導体であるαGルチンとαGヘスペリジンの抗酸化作用に注目し、ガンマ線照射や光誘起による長鎖DNAの二重鎖切断がどの程度抑制されるのかを、蛍光顕微鏡による単一分子観察法を活用して調べた。その結果、光照射に対しては、αGルチンは、αGヘスペリジンの2倍の二重鎖切断抑制作用を示したが、ガンマ線照射においては、両化合物による抑制作用は同程度であることが明らかとなった。線源が違えば抗酸化能の程度も異なることを示した。 2. 既に、精子核タンパク質であるプロタミンによって高度に凝縮したDNAでは、放射線による二重鎖切断が著しく抑制されていることを明らかにしているが、平成22年度は、塩濃度に依存した、プロタミンによるDNAの高次構造変化の特性をを実験・理論両面から考察した。
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