近年、2光子励起顕微鏡(2PLSM)が脳研究の強力な手法として利用されている。当該手法を用いて記憶と神経細胞スパインの形態変化の関連性が示唆される等、神経細胞の精密計測でもたらされる形態学的、分子生物学的知見により、脳機能を理解する新たな時代が到来している。現在、摘出脳を用いた研究(in vitro研究)が世界中で精力的に進められているが、神経細胞機能のより深い理解のため、ありのままの生きたマウス脳(in vivo)の長期・精密計測が必要とされている。しかし、これを可能にするツール・手法の欠落している。そこで、本研究では2PLMSを軸とするin vivo脳研究の技術的制限の大幅な拡張を可能にする、動物個体への埋め込み型インターフェイスデバイスを開発し、世界初の「in vivoマウス脳神経細胞の長期精密計測」の実現を目指した。最終年度は、前年度までに開発した頭蓋骨埋め込み型マイクロ流体デバイスと外部送液系との接続時に細菌や気泡が混入する懸念を解決することを目的として、熱応答性形状記憶ポリマー(Shape Memory Polymer: SMP)材料を利用した新規なマイクロバルブ技術を開発した。具体的にはPDMS製のマイクロ流路構造の下に薄いSMPバルブシートを設置し、微細加工したマイクロヒーターあるいはレーザーを用いた局所加熱により、予めバルブ機能を果たすように設計した変形形状を加えておいたSMPに相転移を生じさせ、数100msの速度で動作するマイクロバルブを試作し、その動作特性を評価した。本技術により、溶液試料の制御機構を脳計測用インターフェイスデバイスに集積することが可能になった。また、最終年度にあたり3年間の成果を総括し、動物個体への埋め込み型インターフェイスデバイスの設計指針、要素技術の体系化を行った。
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