平成23年度の研究においては、(1)2007~08年危機におけるショックの伝搬メカニズムについて、CDS(Credit Default Swap)市場などから検証する、(2)ネットワークに関する研究のうち、グローバル・カスケードを中心に外部性や不確実性の影響を分析している研究に関するサーベイを行い、金融への応用を検討する、などを主要な課題として設定した。このうち(1)については、2007~09年危機におけるショックの時系列的な経過について、日本のCDS(Credit Default Swap)市場や国債(JGB)の市場などを対象に他市場との比較や理論価格との乖離といった指標により具体的に分析した。(2)については、金融機関などの経済主体をノードとするネットワーク分析では、カスケード故障のモデルの適用が有用な面もあるものの、現実的な意味づけにおいて限界があると考えられることが分かった。このため、ネットワークの構造を特徴づける別の指標の可能性について予備的検証を進めた。研究成果としては、前年度に行ったネットワークモデルに基づく金融システム分析に関する論文(個別の金融機関のバランシートを模したモデルを、ホールセール市場における取引関係の観点からスケールフリー・ネットワークとして統合した金融セクターのモデルを構成し、外的ショックが金融システムに及ぼす影響についてシミュレーションに基づく分析を行い、共通のリスク要因に対するマクロ健全性監督の重要性や既存の自己資本比率規制の限界を示したもの)が英語論文としても公表された。
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