金融市場が高騰・暴落するのは、投資家のリスク選好の変化に伴うリスクプレミアムの変動が資産価格に大きな影響を及ぼすからであり、資産評価において、リスクプレミアムは重要な研究テーマである。しかしながら、わが国においては、時系列的な資産価格データに基づくリスクプレミアムの検証自体少なく、ましてやオプション市場や信用リスク関連市場などを分析するために必要な資産評価モデルに含まれるリスクプレミアムの検証は殆ど見当たらない。平成22年度においては、次の研究を行った。(1)日経225株式オプションに内在する投資家のリスク回避度(リスクプレミアムの発生源)を抽出した。この成果として、株式オプション市場に織り込まれる投資家の満期時点における株価分布が現実の株価ダイナミックスをどの程度捉えることができるかについて検証することができた。(2)マクロ経済と株式リスクプレミアムとの関係をリジームスイッチングモデルによって捉える研究を行った。米国においては、マクロ経済リスクの低下が株式リスクプレミアムの低下の誘因であり、その結果として株価の上昇がもたらされたとする先行研究とは異なり、日本では株式リスクプレミアムの低下要因よりもマクロ経済の成長率の鈍化要因が大きいため株価の下落が続いたことがわかった。また、個別株式の市場リスクプレミアムを表現するベータ値もマクロ経済リスクに基づいてモデル化を行い、実データとの整合性を確認した。株式投資技術への応用は次年度以降の課題である。(3)流動性リスクが株価リターンに与える影響の分析やMCMCを用いた取引コストの推定など、次年度以降に行う本格的な流動性リスクプレミアムの検証に関する準備となる分析も行った。何れの研究も、投資家のリスク選好(リスクプレミアム)を金融市場データから推定し、資産評価やリスク管理の技術に役立てる目的に貢献するものである。
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