研究課題
金融市場が高騰・暴落するのは、投資家のリスク選好の変化に伴うリスクブレミアムの変動が資産価格に大きな影響を及ぼすからであり、資産評価においてリスクプレミアムは重要な研究テーマである。平成23年度は、主に次の研究成果が得られた。(1)ミクロの基礎づけに依拠する資産評価モデルで利用されるプライシングカーネルを株価モデルに直接対応する形で与え、株式リターンや様々な権利行使価格のオプションのリターンを適正に割引くことが可能であるかを検証した。日経225オプションに関しては、株価モデルとしてデタミニステックボラティリティモデルを採用した場合でも十分に柔軟な関数形を採用すればモデルは概ね棄却されず、米国のオプション市場と比較するとジャンプ過程やそのリスクプレミアムなどの影響は限定的であった。(2)資産収益率の標準偏差が変化するようなリスクとして短期と長期のGARCHボラティリティを通常の資産評価モデルに加えた検証から、長期ボラティリティのリスクプレミアムの変動が重要な役割を果たすことがわかった。(3)マクロ経済リスクに基づいてモデル化した個別株式のベータ値や株価配当比率のダイナミックスを用いて、ベータリスク制約の下で、モデル対比で割安と判断される銘柄をポートフォリオに組み込んだところ、個別銘柄のマーケットリスクプレミアムが修正される際に収益や損失が生じることが確認された。(4)レジームスイッチングモデルを用いて流動性リスクが株価リターンに与える影響を検証したところ、大型株の流動性ベータが小さいのに対して小型株の流動性ベータは大きく、小型株ポートフォリオのリスク管理においては流動性リスクや流動性リスクプレミアムの影響が大きいことが確認された。何れの研究成果も、金融市場における様々なリスクプレミアムの変動を金融市場データから推定し、資産評価やリスク管理の技術に役立てる目的に大きく貢献するものである。
2: おおむね順調に進展している
資産収益率のジャンプや標準偏差が変化するようなリスクやリスクプレミアムのダイナミックスがオプション評価や資産評価へ与える影響の大きさについて、(1)、(2)の研究成果から概ね把握することができた。また、(3)、(4)の研究成果では、市場リスクや流動性リスクに起因するリスクプレミアムが株式ポートフォリオの収益率に与える影響について経済のレジーム毎に計量しており、投資やリスク管理技術の高度化への可能性を示した。
本研究課題の今後の推進方策としては、概ね当初の研究計画に従って進めていく予定である。ただし、今年度に得られた結果が当初期待した以上に重要と考えられるものであったため、来年度は当初に想定していた信用リスクプレミアムに関する研究の比重を少し落としてでも、今年度に得られた研究成果を更に深めるような研究を合わせて行う予定である。具体的には、流動性リスクの指標に応じたリスクプレミアムの実体経済への影響に関する検証、消費に基づく資産評価モデルにジャンプを組みこんだ場合のオプション市場価格との整合性についての検証、などである。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (18件)
情報処理学会論文誌数理モデル化と応用
巻: 5 ページ: 9-20
巻: 4 ページ: 1-13
JSIAM Letters
巻: 3(refereed) ページ: 57-60
Procedia Computer Science
巻: 4(Refreed) ページ: 1716-1725