本研究は、実証分析と人工市場による計算実験により、株式市場に到来する個々の注文の性質を明らかにし、市場の安定化法を提案する事を目的にしている。プロジェクトの最初の年度であり、研究を実施するための基盤作りとして、人工市場の開発、データハンドリング環境の整備、予備調査を行った。 [人工市場]人工先物市場U-Martシステムを元に、個別株取引、複数銘柄上場、ザラ場と板寄せのハイブリッドな約定システムを備え、ほぼ東京証券市場をシミュレートできる環境を整えた。現物株については、信用取引などの決済システムも実装し、需給のシステミックな偏りも分析対象にできるようにした。システムの基本設計から見直し、プログラムについては、全面的な再開発を行った。このシステム上で計算実験を行うために必要な投資プログラムのプロトタイプを作成した。 [実証分析]日経メディアマーケティング社が販売しているティックデータを中心に、U-Martシステムの実験ログ、その他欧米の株式市場データを統一的に分析するためのシステムを構築した。板情報(指値注文の分布と、約定価格、約定数量)から、個々のオーダーを切り取り、オーダーの到来内容を分析するシステムを開発した。従来から保持していた、東証データ(2007年分)とミラノ市場のデータ、過去に行われたU-Martシステムを用いたヒューマン・エージェントによる実験データの予備分析を行った。特に、U-Martシステムのデータ分析によりエージェントの行動特性が従来の投資モデルや実証研究の報告とは異なっていることがわかった。平成23年1月までの最新データを購入し、予備調査として制度的な境界(ストップ安/高付近、呼び値変更付近、寄り引け時間付近など)の分析を行った。
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