昨年度までに東証上場株式のオーダーフローと価格変動を調べ、注文種毎の到来確率の違いから「安定期」と「不安定期」を区別する指標を得、それに基づくモデルを作成した。人工先物市場U-Martシステムを改良し現在の東証Arrwosをほぼ再現する実験環境を作成した。今年度はこのシステムを用いて先のオーダーフローのモデルの実験を行った。実際のオーダーフローに基づく注文を出すことにより、現実の市場を再現することはできるものの、それを確率モデルの形で与えた場合、価格変動が実際よりも穏やかになり、再現できていないという結果になった。また、あるオーダーフローに追加的な注文を与え価格の復元までにかかる時間を計測した所、追加的な注文の量と復元までの時間の間に、モデル化可能な性質を見出すことができなかった。 そこで、本研究の目的である市場の安定化を実現するマーケット・メーカー(MM)の開発を行うため、実証分析結果のモデル化とは別の方向から研究を行った。これまでのMMは過去の時系列やボラティリティー、自身のポジションなどを利用して気配値を決めるタイプのものである。これに対し、我々は現在の板情報にのみ基づいて気配値を決定するMMモデルを作成した。従来のMMと共に上記システムを利用してパフォーマンスを計測したところ、約定率、市場の安定度、MMの損益の安定度の全てにおいて、新たに開発したMMが上回る結果を得ている。現在この研究について論文を準備している。 これまで実証分析に使用してきた東京証券取引所のデータは2007年と2010年のものであった。2010年に東証Arrowsが開始し約定にかかる時間が大幅に短縮された。更に、その後アルゴリズム取引が盛んになりオーダーフローの様相が大きく変化していることなどから、当初、論文校閲や学会報告のための旅費に計画していた分を利用して、2012年のデータを購入した。
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