本研究では、内部統制型不正防止に重点を置き、不正の3要素である1)機会の認識、2)動機とプレッシャー、3)正当化、に焦点をあて、不正防止対策としての意思決定法について考究する。まず従来の意思決定が、優れたものの選択を意識した優越型の意思決定になっていることに対し、不正の原因となる不公平、不備、嫌悪、プレッシャーなどを扱う劣等型の意思決定法を確立する。優劣は互いに表・裏の関係にあり、優越型、劣等型意思決定構造にはお互いに密接な関係がある。これらの関係を双対システムの観点から分析し、人間の心の裏表を分析できる新たな意思決定機構を構築する事が本研究の目的である。 本年度は、最初に、ベクトル積を用いて評価の類似性と差異の程度を評価できる手法について開発を進め、それから、(1)優越型意思決定機構構築のための質問形式、劣等型意思決定機構構築のための質問形式、そして、これらの質問結果からなる比較行列の双対性について検討した。その結果、行列の要素値が比尺度で与えられる場合、大小関係に対して双対であり、行列の固有値からなる重みベクトルも逆関係になることがわかった。次に、(2)優越、劣等それぞれの比較行列の整合性を可到達行列の性質から論じている。さらに、(3)正の評価を与える優越型階層と負の評価を与える劣等型階層を対称型ネットワーク構造で構築することを提案し、双方の評価の整合性から全体のシステムの整合性を論じている。
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