本最終年度は、昨年度までに確立した技法を用いて、ヒューマンエラー誘発課題における自覚状態(アウェアネスレベル)の測定を実施し、ヒューマンエラーとアウェアネスレベルとの関連性を検討する。応募者らも参加した東北大学と(株)原子力安全システム研究所との共同プロジェクト「ステップ抜かしエラーの検討」(H14年度)で開発された課題を精緻化させた実験プログラムを用いる予定だったが、アウェアネスレベルの測定により適した実見プログラムを独自に開発することとした。これは「ステップ抜かしエラーの検討」で用いた課題の難易度が高く、課題に習熟し自動化(無自覚化)させるまでに時間がかかることがわかったためである。 新たに開発した課題は、画面上を方形に移動するターゲットをマウスで追跡するトラッキング課題であり、新たに習熟する必要のない作業だった。ただし、実験参加者が動かしたマウスの軌跡と画面に提示するポインタの軌跡を少しずつずらしていくことで、実験が進むについれ、無自覚的追跡過程→無自覚的修正過程→自覚的修正過程と変化する課題とした。実験中は、前頭葉活動や心拍等の生理指標を測定し、これらのデータに基づいて、アウェアネスレベルの状態と相関の高い生理指標の分析方法を開発することができた。データは本研究終了後も収集を継続しており、これらの結果をさらに検討することで、アウェアネスレベルとヒューマンエラーとの関連性をより精緻にとらえることとした。 また、本年度のもう一つの目標だった産業現場における有用性の検討については、現時点までにポジティブな成果を得られるに至っていない。これは、計画の段階で想定していた軽微なエラーとアウェアネスレベルとの関連性が低いことに依ると考えている。今後、より広範な協力現場を募り、有用性の検証に努めたい。
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