地震の被災地では地震後、数度から数十度傾いたまま立っている木造住宅が、しばしば見受けられる。傾いた建物は解体されることが多いが、傾きをもどして使用することが可能な場合が、あると思われる。本研究は地震で傾いた木造住宅について、これを解体するか否か、傾きをもどし補強せず、または補強して使用をつづけるかといった問題に関して有用な情報を実験と計算によって得ようとするものである。 本年度は、ある方角方向に働いた地震動により受けた損傷が、別の方角方向への抵抗性能に及ぼす影響について検討した。試験体は在来軸組工法で4本の柱を使用したものである。耐震抵抗要素を軸組のほかにもっていないもの(純フレーム)と、構造用合板により軸組内を強くしているものの2種類用意し、性能を調べた。仕様はフラット35の融資基準に準拠したものとした。実験の結果ある方角方向に働いた地震動により受けた損傷が、別の方角方向への抵抗性能に影響を及ぼすことが分かった。 次に、地震被災シミュレーションプログラムを使って、平成23年東北地方太平洋沖地震など顕著な被害を引き起こし気象庁により命名された8つの地震により記録された地震動を本震として、モデル木造平屋建て建物に入力して最大の傾きを調べた。さらにその被災した建物に余震による地震動を与えて本震による最大の傾きと余震による最大の傾きを比較した。モデル建物は耐震性能の異なる種々の建物を表すため筋かいのある壁の枚数を0枚から10枚と種々に変えてシミュレーションを行った。それによると、本震時には倒壊せず余震時に倒壊したのは平成16年新潟県中越地震の筋かい壁2枚のモデルのみで、その場合本震時の最大の傾きは23度という結果となった。つまり本研究の範囲では、本震による最大の傾きが23度未満であれば、余震によって倒壊は起きないという結果が得られた。
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