本研究は、近年になって進化発生生物学におけるモデル生物としての位置づけが確立しつつあるカタユウレイボヤについて、もっとも研究の進んでいない細胞群の一つである被嚢細胞の分子および細胞生物学的研究基盤の確立をめざした。 研究は大きく2パートに分かれる。すなわち(1) ホヤの被嚢細胞に発現するRNAの網羅的な解析と、(2) 被嚢細胞自体の分子細胞生物学的な解析である。 (1)について当初の予想と異なり、RNAはとれるものの、配列解析に十分な高い精製度のRNAを取得することができず、研究計画を大きく変更せざるを得なくなった。このため(1)については、期間中にできるだけ多くの被嚢の冷凍サンプルを取得することと、被嚢からの被嚢細胞RNAの抽出方法についての条件検討を行った。また配列解読以外の方法を模索するために、DNAマイクロアレイの設計を行った(13. 研究発表Matsumae et al. を参照のこと)。(2) 被嚢細胞については、まわりを覆うセルロース性の繊維のために、細胞生物学および分子生物学的な解析をおこなうのも困難である。連携研究者の広瀬祐一教授の助言を得て、被嚢細胞のみをスライドグラスに移動させる手法を開発し、核の染色を行った。このことで被嚢細胞がまちがいなく核をもつことや、この手法ですくなくとも2種類の被嚢細胞をスライドグラス上に移動させることができることを確かめた。この手法を利用することで、被嚢細胞で発現する遺伝子のin situ hybridizationも可能になったと考えている。 残念ながら(1)の計画の遅れのために、当初の目的を期間中に達成することができなかったが、必要なサンプルを十分量確保し、保存してあるので、今後、予定の被嚢細胞RNAの解析を2年以内をめどにすすめたいと考えている。
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