研究実施計画に基いて実験を進め、以下の結果を得た。 1. この研究の基盤となるRFHR・2D・PAGEの分離度と定量性の向上を目指して、蛋白分子の一次元ゲルの濃縮導入法が再検討された。従来は一次元泳動の直前に行うサンプルチャージング(0次元)泳動によって蛋白分子を濃縮導入したサンプルゲル片を作成し、それを一次元ゲルの中間に挿入することによって二次元ゲルの塩基性酸性両領域に全蛋白質を泳動させることができたが、弱点として、分子量の大きい中性酸性領域の蛋白質がしばしば一次元方向にtailingする傾向を伴った。このtailingは蛋白分子がサンプルゲルから一次元ゲルに移動する際、分子量の大きさが災いしてゲルの界面に停滞してしまうことに原因があることがわかった。これを克服するため、中性酸性領域と塩基性領域を分けて分析することにして、中性酸性領域にアルギニン(trailing ion)と塩素イオン(leading ion)によって一次元ゲルに直接濃縮導入するシステムを作った。これでサンプルゲルの挿入が不要となり、一次元ゲルとの界面でおこる停滞がなくなったため、分子量の大きい蛋白質もtailingしなくなり、正常なスポットを形成するようになった。「定量的プロテオミクス」の方法的基盤がこれによって確立した。 2. 本研究の目的は原核生物の翻訳系蛋白の包括的解析であるが、当面大腸菌、乳酸菌、黄色ブドウ球菌などを取り上げていく。これらの培養系はほぼ確立した。翻訳に関わる蛋白の中で特に100Sリボソーム形成に関与する因子を重点的に調べ始めたが、現在までに原核生物の100Sは二つの異なった機構によって形成されることが明らかになってきた。一つは大腸菌を含むγグループでRMFとshortHPFが形成因子であり、もう一つはlongHPFのみによって形成される。後者は原核生物の大部分を占める。
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