本研究で対象とするKCNQ1遺伝子は、日本人において重要な2型糖尿病関連遺伝因子である。しかし、疾患に関連する一塩基多型(SNP)は、KCNQ1遺伝子のイントロン領域に集中しており、KCNQ1タンパク質の機能変化には直結しない。KCNQ1遺伝子自体あるいはKCNQ1近傍遺伝子の発現変化を介して作用する可能性が考えられるが、疾患感受性SNPが2型糖尿病発症リスクを高めるメカニズムは依然不明である。そこで本研究では、疾患感受性SNPの機能的意義を、分子レベルで解明することを目的とする。 平成22年度は、ナノビーズ技術を用いて、KCNQ1遺伝子のSNP領域に結合する新規因子(以降、KSBFs)の単離・同定を行った。1.疾患感受性SNPを含むゲノム領域について、リスクアリルあるいはノンリスクアリルを固定化したナノビーズを、それぞれ作製した。2.疾患感受性SNPの関与が最も疑われる膵β細胞を対象とし、ラット膵β細胞株INS-1の細胞抽出液から、SNP領域に結合するタンパク質の精製を行った。3.アリル間(リスクアリルとノンリスクアリル)で結合に差異のある因子について、マススペクトル解析を行い、KSBFsを同定した。4.組換えKSBFsタンパク質を作製し、SNP領域固定化ナノビーズとの結合実験を行い、KSBFsのSNP領域への結合と、アリル間での結合の差異とについて確認した。 今後、KSBFsの機能解析を行い、膵β細胞機能との関連について解析を進めることにより、疾患感受性SNPと2型糖尿病発症との関連について、分子レベルでの解明につながると考えられる。また将来的には、糖尿病の新薬創製に向けた基礎データとなるとともに、機能ゲノム学の進歩にも役立つと考えられる。
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